2話 日記メール
周りを物珍しそうに見回す唯智を見て、目を細めて笑いながら跡部が口を開いた。
「これから唯智が生活するのは俺らが教師が住む社宅と言う名の寮だ。」
『え?生徒がいる寮じゃないんですか?』
「昼間外に出られない代わりに教師が時間を見つけてはおまえのところに来るんだ。生徒から恨まれたくないなら社宅をお勧めするが?」
ルックスだけ見てもかなりレベルが高い教師たちが生徒の間で人気あることも納得いく。
「各部屋にはパソコンが設置してあるんだ。丸井が課題をメールすると言っていた。後は好きに使え。……使い方はわかるな?」
『あ、はい。パソコンは得意です。友達はパソコンだったと言えるくらい……』
そう俯いて言った唯智の頭を跡部は優しく撫でた。
「友達になってやる、って喜んで言う奴は多くいると思うが?」
『……跡部理事長なら言ってくれますか?』
「……あぁ、もちろんだ。」
第一印象を大幅に覆すであろう彼の表情に唯智は嬉しそうに微笑んだ。
「ただ、その“理事長”はやめろ。」
『では、跡部先生で良いですか?』
――チロリン
その時、まるで跡部を邪魔するようにパソコンがメールを受信したことを知らせて鳴った。
「それでいい。じゃあ、今日はゆっくり休め。」
『ありがとうございました。』
部屋から跡部が出ていくと唯智は早速届いたのメールを見た。
>>唯智へ
こんばんわ!
国語担当教師の丸井だ。
##name1##は毎日日記を書くことが国語の課題な!
それを{**.******@****.ne.jp}まで送れ。
内容は好きなように書けばいいが一文、“国語的恋文”を作るように。
これはすべてのクラス(一学年10クラス)から1人ずつ毎日交代でやらせてて、文章力を見極めるための課題なんだ。
俺ら教師のところにランダムに配信さるて返事を書くわけなんだが、誰がどれかわかんねぇんだ。
(一クラス30人が30クラスもある、つまり900通りのアドレスなんかいちいち覚えてらんねぇし。把握して最終統計を出して評価すんの跡部だし。)
でも相手がわからない分、文章から判断できるから楽でいいんだよな☆
(日記に点数つけてることは内緒な?)
あ、宛先は「日記さん」でシクヨロ☆
明日はたまに俺の代役をする赤也と国語の授業をしに行くかんな?
と、言っても唯智は頭が良いらしいからあんま俺が教えることないだろうけど(笑)
ゆっくりやすめよ?
んじゃ、おやすみ!
>>丸井ブン太
丸井からのメールを見てすぐに唯智は丸井に返事をした。
“君は花の蜜、僕は蝶――君は僕が来るのを待ちわび、僕は君に会えることを心待ちにしている”
するとわりと早く返事が来た。
“俺そんな甘い匂いするか?”
それを見て唯智は笑った。
唯智は部屋を片づけつつ、丸井とメールをしながら就寝時間まで時間を潰していると違うアドレスでメールを受信した。
>>天紫唯智へ
ようこそ我が学園へ。
丸井先生から日記から判断する文章力成績システムは聞いたかな?
貴女は日々のことを綴ればいい。
日記には嘘をついちゃダメなんだ。
明日から楽しみにしているよ。
これからよろしくね。
>>日記より
メール相手は“日記”と名乗る。
唯智はなにも疑問を持たず、返事を打ち返した。
“日記さん、わからないことだらけだからいろいろ教えてくださいね?”
唯智はなんの疑いもなく“日記さん”に返事をする。
それはある男の元で受信された。
「……ククッ、」
楽しそうにメインコンピューター前にいる人物はシステム変更のボタンを押した。
“天紫唯智”
「ランダム送信解除。」
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