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19話 君が好き


仁王は強気でそう言ったが唯智を呆気なく手放した。

唯智は不思議そうに仁王を見上げ、不安な面もちで彼を見つめた。


「しかし、決めるんはお前さんなん。」


いつもからは考えられない弱気な、それも消えてしまいそうな仁王の言葉に唯智は戸惑った。

結論は唯智に託されたが彼女は言葉を濁して言った。


『私に、選ぶ権利なんか……』


そんな唯智に二人はおまえが決めなきゃ誰が決める、と口を揃えて言った。


『(跡部先生か仁王先生、)』


跡部を選んでも、仁王を選んでも、どちらかを傷つける結果となる。

唯智はまたも泣きそうになり、自分の手を握り締め、涙を堪えて意を決して言った。


『……ごめんなさい……』


意外な言葉に二人は唖然とした。

まさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。


「唯智、」

『なにも言わないでください。』


唯智は俯いたまま、跡部の言葉を遮ると彼はため息を吐いた。


「……一つだけ言わせてくれ。唯智はその結果に満足してるのか?」

『ッ、』

「ふられたというものの、拒絶されたわけじゃねぇからな。」


跡部は不適な笑みを浮かべると落とせるまでアタックするまでだ、と付け加えた。

彼は負けを認めることなく、その場を仁王に託すと去っていった。


「唯智はとんでもないヤツに好かれたな、」


そう笑いながら唯智の横に立った。

彼女は初めて受けた告白、それも同時に受けた告白にうまく対処できなかったのだ。


『心を支えてくれたのは跡部理事長でした。』

「あぁ、」

『でも………』


言葉を詰まらせた仁王は次の言葉を長い間待った。

急かしたくもなかったのだ。

ようやく気持ちの整理がつくと唯智はゆっくりと話した。


『私をこれからもドキドキさせてくれるのは……仁王先生だと思ってます。』


そう言われ、仁王は表情を緩ませ、安堵して返事した。


「ありがと、」


こう結論がでることを跡部ならわかっていただろう。

しかし彼の性格上、狙った獲物は逃がさないタイプ、言い換えるなら諦めが悪いだけなのだが。

仁王はまだ決着が付いていないことを今の唯智の一言で忘れてしまっていた。


「唯智、あれは告白としてとっていいんか?」


唯智はそれに対し、はっきりと返事はしなかったが仁王は彼女の言いたかったことを察し、彼女の手をそっと握ると笑った。


「跡部も俺も、こんなに真剣に好きになれたんは唯智が初めてなん。まさか跡部と取り合うなんて始めは思うとらんかったよ。」

『先生……』

「気持ちが唯智に届いた。それがなにより嬉しい。」


そう言われ、唯智は頬を赤く染めながら言った。


『私…先生が好きです、』


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