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17話 真実を


跡部の言葉を受けた唯智はなぜあぁもイライラしているのか理由がわからず、悩むばかりだった。

後に唯智は日記にこう綴った。


『跡部先生も仁王先生も優しいのにわからない時がある…』


跡部は自分らしくない、とかき乱される心の中を見つめていた。





時経たぬ内に跡部と散歩していた日々は初めの頃のように仁王と散歩するようになっていた。

しかし、唯智は骨折やヒビが入っていることもあり、車椅子を用いていた。


『平気なのに、』

「みんな心配性じゃけ。それだけ愛されとる証拠じゃ。その愛は受けとっときんしゃい?」


俺もその一人、と呟くと唯智は車椅子を押して歩く仁王を振り返り見た。


『心配してくれてるんですか?』

「もちろん、」

『がっくんが言ってましたよ?あまり唯智を過保護にすんなー!って、』

「そう言いながら一番過保護にしとうのは向日じゃっちゅうに。」


あたりに楽しそうな笑い声が響いた。

肋骨の骨折の治療は手段がないわけではないがかえって不便になるため、忍足は治療を放置した。

打撲や切り傷は日にち薬で。

足のヒビはあまり動かさないように、また負担をかけないように固定しているだけで治療らしい治療はしていない。

それでも、治癒力というのはすごいもので唯智の傷はすぐに治っていった。


「若いっちゅうんはいいのう、」

『先生も若いくせにー!』

「俺は年じゃ、年。」

『しゃべり方が?』

「それは方言じゃ、」


楽しい日々を送っている、と言うのは早くに治る要因の一つかもしれない。


そんな唯智を目で追う跡部は彼女が仁王に惹かれていることを感じ取っていた。

不満に思うがなにもできなかった。


「……跡部が健気だC、」

「したかねぇじゃん。こればかりは唯智の問題だろうが。」

「こらこら、お二人さん。覗きとは趣味が悪いで?」


幼なじみの芥川と宍戸にすれば心配でならなかった。

跡部が唯智を見つめるあの寂しそうな視線を知ってしまえば誰でも心配するだろう。

だが、他人事に介入することが良いとは思わない彼らは見守ることしかできずに歯がゆい思いをしていた。



しかしある日、状況は一変した。


「たく、幸村のやつ。唯智の英語の授業押しつけやがって。」


半ば面白がる幸村の手口に引っかかってばかりの跡部は痺れを切らし、幸村に訴えることにした。

会議室に来ると幸村の声が聞こえ、ドアノブに手をかけたときだ。


「仁王、本気みたいだな?」

「幸村くんも思う?」


その場にいた丸井の声が聞こえ、跡部はノブから手を離した。

二人の会話を聞き、唇を噛みしめた。


「アイツらがくっつくのも時間の問題か?」

「言っていたよ。今夜―――」


幸村の言葉の意味を悟った跡部は行動を改めた。

生徒と教師という関係など気にしていられなくなったのだ。



その日の夜、跡部は“最後に賭けてみよう”と唯智の元へ向かった。


「唯智!」

『あ、はい…開いてますよ?』


ドア越しにそう聞こえると跡部は周りを見渡してから唯智の部屋に入った。

『どうしたんですか?まさかこんな時間から授業ですか?』


そう柔らかく笑う唯智を見て胸が張り裂けそうな感覚に陥る跡部。

彼が夜に部屋を訪れたのには理由があった。


「これから付き合ってくれるか?」

『今からですか?』

「あぁ、」


跡部を断ることができない唯智はOKをした。

跡部は仁王が散歩に唯智を誘いにくる前に彼女を連れ出すことにしたのだ。


「……日記書いてたのか?」

『あ、はい。いいんです、また後で書きますから。』


唯智は日記を書いている途中でも快く跡部に応じた。

毎日、身の回りに起きることを報告するのが日課であった唯智の文章内容はだいたい想像がついた。

パソコンを横目に胸を痛めながら跡部は唯智を連れて部屋を出た。

パソコンの文章を上書き保存し、画面をそのままにして――



跡部たちが去ったその後、仁王は唯智の部屋へ向かっていた。


「(幸村んせいで遅うなった、)」


途中で足を引き留められた仁王はいつも散歩に誘いにくる時間より10分ほど遅れて唯智の部屋へ来た。

そこに彼女の姿がないのを知って疑問を抱いていた。

そのとき、仁王の目に付いたのは途中まで書かれた日記の文章だった。


『最近、また仁王先生が優しくしてくれるから嬉しい。跡部先生は仁王先生を危険人物だから近づくな、って言うんです。私にはわかりません。あんなに優しく笑ってくれるのに?私にはそんな人に見えません。仁王先生を私は信じたい……』


それを見た仁王は信用を取り戻せたことを知って胸が熱くなった。





一方、唯智は跡部と理事長室に来ていた。

そこで見せられたパソコンの画面には自分のメールアドレスがズラッと並んでいた。

今まで送り続けていた日記メールが跡部にすべて届いていたことを知り、ひどく動揺していた。

時たま優しい言葉が返ってくる相手が実は普段少し強引な跡部なのは意外だっただろう。


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あきゅろす。
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