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16話 嬉しいけど


唯智が先の地震で重傷だと芥川から聞いた仁王は心配になり、保健室へ行くことにした。


「ま、跡部を押したいとこだけど…仁王とくっついても俺は唯智が幸せならいいもんね〜」


芥川は仁王の背中を見てニヒヒッと悪戯っぽく笑った。

仁王は保健室にたどり着くとまず忍足に会った。


「なんや、唯智に会いに来たん?」

「だったらなん?」

「はは、そんな構えんでええやん?邪魔なら出ていくし。」


忍足は立ち上がると保健室から出ていった。

足音が聞こえなくなると仁王は唯智が寝ていると思われる一つだけカーテンで仕切られているところに近づいた。

カーテンをゆっくり開け、中に入ってみた。

まず仁王の目に飛び込んできたのは痛々しい唯智の姿。


「………唯智?」


遠慮がちに声をかけたが返事はなかった。

眠っていると判断した仁王は唯智のベッド脇にあったイスに腰掛け、彼女の手を取った。


「助けに行けんくて悪かった。そばにいてやれんで悪かった。なにも出来んくて悪い。」


そう呟くと唯智の手に反応があった。

仁王は驚いて目を見開いてしまった。


『言いたいことはそれだけですか?』

「お、起きちょったん!?」

『…………』


唯智が目覚めていたとわかるや仁王はすぐに握っていた手を引いた。


「あー……なにから話そうか?とりあえず、大丈夫なんか?」


そうしどろもどろ言う仁王の言葉に唯智は涙をこぼした。


「な、なんで泣くんじゃ?」

『だ…て、せ…んせぇ…私のこと…嫌い、みたいだから……』

「は?」

『口先だ、けでも心配してくれたから。』


彼女は一気に思っていたことを吐き出すとわぁっと泣き出した。

恐らく嬉しかったのだろう。


「嫌いになるわけなか。じゃけど、俺が唯智のそばにおると傷つけてばっかなんよ。これからはちゃんと意志の疎通を図らにゃいかんな。」


仁王はそういうと唯智の頭に手を伸ばした。


「ごめんな?」


そう静かに言うと髪を優しく撫でた。

唯智は安心して、安堵のため息を吐いた。

「ゆっくりで良いから、おまえさんの気持ちや考えとうこと…教えてくれん?」


唯智はコクンと頷き、身を起こそうとした。

しかし折れた肋骨が痛み、顔を歪めた。


「そのままでよかよ?」

『すいません、』

「無理しちょるとほかの部分にも影響が出る……て、なに笑っとう?」


仁王は嬉しそうに微笑む唯智を見て額にデコピンをお見舞いした。


『先生が元に戻ったから…』


自分の行動一つで彼女の表情が変わることを理解した仁王は二度と同じ過ちはしないと誓った。


『あれから授業の担当が変わったから私、嫌われたと思ってたんです。』

「……………」

『本当は先生に迷惑かけたくなかっただけで……』

「それはどういう意味なん?」

『あ、や…』


口を滑らせたと気づき、慌てて言葉を濁す唯智。

しかし、仁王にそんなことが通用するとは思えない。


「言うまで帰らんからな。」


一度気になると話を把握するまでうるさいタイプの仁王は本気だろう。

唯智は困るに困り、降参すると仕方なく口を割った。


『先生はモテるから…』

「は?」

『周りにはファンの生徒たちがいっぱいいるから迷惑かけたくなくて。』

「ファンと唯智がなにか関係あるん?」

『私にばかりかまってたら生徒が僻(ひが)みますよ?かまってくれない、って。』

「そんなんは知らん。俺がだれといようが俺ん勝手じゃき。」

『でも……』


目を伏せた唯智を見て真剣に考えてくれていたんだな、と感じ取ると仁王は嬉しかった。


「だからおまえさん、夜の散歩に出てこんくなったんか…」

『……………』

「社宅に住んでること忘れとうよ?唯智は教師たちとしょっちゅう関わるから生徒に妬まれんように社宅に入れちょるん。気にしなさんな。」


どこか腑に落ちないと言った表情の唯智に仁王はさらに言った。


「これからは俺が頼む。」

『?』

「夜、散歩に付き合うてくれんか?」

『…え?』

「もう一回言わせる気なんか?これからは俺の散歩に付き合うてくれん?」

『でも、なんで…』

「一緒に月の下歩くなら唯智がいいん。ただそれだけ。そんな理由じゃ納得してくれんか?」

そう少し不安の色を見せた仁王に唯智は慌てて首を横に振った。


『私でよければ!』

「よかった。」


仁王は誤解も解けて安心し、少しずつ唯智に歩み寄ることにした。


「唯智が授業できるくらい復帰したら数学の授業は俺が受け持っちゃる。」

『はい、お願いします!授業は今からでもできるくらい元気ですよ?』

「しばらくは安静にしときんしゃい。」


二人はお互いに微笑んでいた。

そんな様子を見て、跡部が面白がるわけがなかった。


「じゃあ、また来るな。」

『あ、はい。ありがとうございました。』


仁王は唯智にヒラヒラと手を力なく振ると保健室を後にした。

それを狙っていた跡部はすかさず唯智に近寄った。


「唯智、」

『あ、跡部先生。さっきは助けてくださり、ありが「仁王はやめとけ。アイツは危険人物だから近づくな。」


そう唯智の言葉を遮り、確信のない忠告をすると跡部は姿を消した。


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