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17話 真実を


唯智は時経たぬうちに跡部と散歩をしていた日々が仁王と散歩するようになっていた。

毎日、唯智を目で追っていたため彼女の気持ちが仁王に傾きつつあることはすぐに理解できた。

不満を感じるものの跡部はなにもできずにいた。


唯智は日々、身の回りに起きることを“日記さん”に報告していた。

その内容は言うまでもなく仁王のことばかり。

跡部と関わりがないのだからそれは仕方ないことだった。


それから少し日が経ったときのこと。

跡部が会議室の前を通ると宍戸と忍足の声が中から聞こえてきた。

ドアノブに手をかけたとき、二人の会話を聞き、静止した。


「ホンマかいな!?」

「あぁ。幸村に宣言したらしいぜ?丸井から聞いた。」

「……唯智はなんて返事すんねやろ?」

「さぁ?でも、跡部には言わねぇほうがいいよな?」

「せやな、」


仁王が決心したことを人づたいとは言え、跡部の頭の中は真っ白だった。

起きるであろうことを予測出来たはず。

ただ考えたくなかったのだ。

しかし今はそんな悠長なことは言ってられない。

跡部は唯智の元へ走り始めた。

走り去った足音を聞き、忍足は会議室のドアを開け、周りを見た。


「誰かいたんか?」

「……跡部だな。」

「なんでわかるんや?あ、ホンマや。」


そこには一つのリングに二つの鍵が通っていた。

唯智の部屋のマスターキーと理事長室の鍵が落ちていたのだ。





一方、唯智は日記を打っている最中、部屋を訪れた人物に驚いていた。


『ど、どうしたんですか!?』

「たまにはな。気分転換だ。仁王とばっかじゃ飽きるだろ?」


唯智を散歩へと誘う人物、それは“跡部”だった。


『お気遣いありがとうございます。』

「(嬉しそうな顔、)」


唯智は嬉しそうに答えると跡部の誘いに応じることにした。

パソコンはそのままにし、電気を消して部屋を出て鍵をかけた。





その数分後、忍足たちの話を聞いた跡部は慌てて唯智の部屋に来た。

部屋のドアをバンバンと壊れそうなほど叩き、叫んだ。


「唯智!唯智ー!!」


ドアノブに鍵がかかっていることを知ると自分の服のポケットを触り始めた。

そのとき、目の前に二つの鍵が差し出された。


「おらよ、」

「……なんで持ってんだ。」

「会議室ん前に落ちてた。おまえが本気で走ると半端じゃねえからな。」


会議室前で忍足は宍戸に鍵を託した。

学生時代に鍛えた足の速さなら跡部に追いつけると考えたのだ。

それでも普段あまり走る機会がないためか息が上がっている宍戸を見て跡部はニヤリと笑った。


「いつも本気だと思いこんでた。」


そう言うと宍戸から鍵を受け取り、唯智の部屋の鍵を開けた。


「今頃気づいたのかよ?激ダサ。」

「うるせえ、」

「跡部にしちゃいつになく慎重だなって思ってたんだぜ?」


ふん、と鼻で笑うと唯智の部屋のドアを開けた。

パソコンが小さな光を放っているだけで部屋の中は暗かった。


「なんだ。いねぇじゃん、」


跡部はパソコンにゆっくり近づき、マウスを動かした。

するとスタンバイ状態からパッと画面が変わった。

一瞬、目が眩み、目を細めた。

目が光に慣れるとパソコンの画面上にある文章を読んだ。


『最近、また仁王先生が優しくしてくれるから嬉しい。でも、跡部先生が気になる。私にまた優しく笑ってくれる日はくるのかな?今は離れているべきかも〜とか思う。だけど私は待つよ?その日が早く来てくれるといいなって願う。だって私は――』


途中までの文章を見て跡部は決意した。

そして宍戸を見た。


「負けんなよ?相手は仁王だからな?」

「誰に言ってやがんだ?」


跡部は不適な笑みを浮かべるとすぐに走り始めた。


「……なんせ、跡部様だかんな。」


宍戸は走っていった跡部の背を思い出しては笑うのだった。

ようやく“らしく”なりやがった、と。





一方、“跡部”は唯智を連れ、散歩コースにある手すりのないベンチに来た。

唯智をそこに座らせると“跡部”は彼女に背を向けて口を開いた。

唯智が自分をどう思っているか知りたいがゆえ。


「なぁ、唯智?」

『はい、なんでしょう?』

「おまえ、好きな奴いるのか?」

『……え?』


思いがけない質問の意図に唯智は期待しつつ、深呼吸をしてから答えた。


『います、』

「……やっぱりな。」


彼は内心、動揺していた。

しかし、表向きは冷静を装い、なんでもお見通しと言わんばかりの態度で唯智に接した。


「なぁ、唯智?」

『はい、』

「(好きなヤツがいたとしても一時的に手に入れられるなら、)」


そう“跡部”は思うとベンチに座る唯智を立たせて抱き寄せた。


『っ、あの…』

「ふっ、まさか緊張してるのか?こんなんじゃ先が保たないぜ?」


“跡部”はそう言うと彼女の顎をすくった。


「なぁ?キスはしたことあるか?」

『……あり…ません、』

「ククッ、素直でよろしい。」


教えてやるよ、そう言うと優しく言うと唯智の唇に唇を重ねた。

彼は誰か、唯智は疑いもしなかっただろう。


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