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15話 無力でごめん


翌日の社会の授業で唯智は地図に印を書き込んでいた。

宍戸は腫れぼったい彼女の目を見てなにも言いはしなかったがその分、心配していた。


『宍戸先生が今行きたいところってあるんですか?』

「そうだな〜…オーストラリアかな?あそこの動物は観光客のせいで人慣れしてるから可愛いらしいぜ?」

『へ〜いいなぁ!』

「なんでもパンを持ってるだけで膝に上ってくるとか?」

『なにが上ってくるんですか?』

「ワラビーとかポッサムとか鳥とか?」

『ポッサム?』


唯智にとって宍戸は一番楽な相手ではあった。

なにも考えなくて済むし、気軽に話ができるからだ。


『でも膝の上に乗ってくれるなんていいなー。動物とお友達になれそう!』


そう唯智が笑ったときだ。

カタカタと食器棚が音を立てた。


「地震か?」


宍戸は周りの様子や音を敏感に反応していた。

収まる気配はなく、グラグラッと揺れが激しくなった時、宍戸は慌てて動き始めた。


「唯智、逃げるぞ!」

『あ、はい!』


揺れが大きいあまり、まともに唯智も宍戸も歩けはしなかった。

バサバサ、ガタガタと音を立てて本や辞書、本棚においてあったものが上から二人に降りかかってきた。

その時だ。


「唯智ー!!」

『!』


ズゴーン!と大きな音がし、宍戸は一瞬で舞い上がったほこりにむせた。


「唯智!唯智!!」


ほこりを手で仰ぎ、宍戸は唯智の姿を確認する。


『し…し、ど……せ、ん……せ。』


遠のく意識の中、唯智は懸命に宍戸の名前を呼んだ。

それに気づいた宍戸は唯智に手を伸ばし、手を強く握った。


「唯智、無事か!?」


そう言ってから足下に広がりつつある鮮血に気づいたのだった。

自分もある程度の打撲やガラスなどで切れた切り傷があったがどれも傷は浅かった。

と、なればその血がなにを意味するか宍戸は理解し、青ざめた。


「待ってろ、唯智!今助け呼んでくる!!」


本棚を一人で退かすことはできないと思った宍戸は唯智を一人部屋に残し、助けを呼びに行った。

その時だ。

唯智の携帯がポケットで振動した。

なんとか携帯を引きずり出し、応じると相手は仁王だった。

いくら避けられているとしても唯智の安否は確認して安心したいところだった。


「唯智!無事なん!?」

『……に、お………助…けて―――』


そう助けを求められると仁王は焦っていた。

彼は授業中だったらしく、他の生徒を避難させている最中だった。

しかし、仁王は他の生徒を放り出し、唯智を優先しようとした。


「今行っちゃるから辛抱しんしゃいよ!?」


そう電話を握りしめて走り始めたのだが。


「唯智!!しっかりしろ!!唯智!!!」


そのとき、電話越しに聞こえたのは唯智の名を呼ぶ跡部の声だった。


「唯智、もう大丈夫だかんな!」


恐らく、宍戸に助けを求められてやって来たのだろう。

仁王の足はピタリと止まった。


「俺は……用無しか、」


仁王は静かに二つ折り式の携帯を折り畳むと生徒たちの元へ戻った。

一方、唯智はなんとか本棚の下から助け出され、止血だけ施して忍足の元へ来た。


「忍足、唯智を見てやってくれ。」

「俺が思うにコイツの足、軽くヒビいってやがる。」

「任せといてや、」


医師の免許を持つ忍足はてきぱきと唯智に手当を施した。


「宍戸、おまえは平気なのか?」

「……あぁ、」

「それはよかったな。」


跡部にそう言われ、皮肉として受け取った宍戸は彼に頭を下げた。


「すまねえ!俺が付いていながら…」

「……おまえがいたから、早くに唯智を助け出せたんだろうが。」

「でも、」

「唯智は生きてる。それで十分だろ、」


跡部の言葉に宍戸は無力だった自分を責め、悔しがりながら涙をこぼした。


唯智の手当を始めてから1時間半が経過したとき、保健室の扉が静かに開いた。


「なんや、待ってたん宍戸?」

「……………」

「そんな顔すんなや。唯智やけどな?肋骨は骨折してるけど大したことあらへん。背中を強打しるからしばらくは安静にしてへんとアカンな。ちなみに足はヒビいってる。ほかは打撲や切り傷が多数ある状態や。」

「それのどこが大したことないんだよアホッ!」

「本人は至って元気そうや。今は点滴して眠ってるさかい。様子見たって?」

「…………」


忍足に背中を押され、宍戸は保健室に足を踏み入れた。


「唯智?」


宍戸がカーテン越しに声をかけるが返事がない。

本当に眠っているとわかった宍戸はカーテンを少し開け、中の様子を見た。


「ごめんな、」


宍戸は心から申し訳なさそうに言うと保健室を後にした。


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