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14話 そんなはずじゃ


唯智の部屋の明かりがチカチカとついたり消えたりし始めた。

電気のスイッチを入れてすぐにつかなくなった、と気にはしていたがいよいよもって交換した方がいいようだ。


『はぁ、もう少し粘れないかなぁ?』


電気を長らく見つめていたが電気の光具合が安定することはなかった。

そのため、仕方なく唯智は舎監室に来た。


『失礼します。ジロー先生?』

「なん?」

『!――に、おうせんせ……』


そこにいたのは芥川ではなく、仁王だった。


「芥川は今、仮眠中じゃ。」

『あ、そうで…すか。』


夜中も寮の見張りをする芥川は自室、または丸井の部屋でいつも仮眠をとる。

その間、代役として近くにいる教師を誰これ構わず舎監室に置くのが常。


「そのうち戻ってくるとは思うが?」


それだけ言うと仁王は手元の資料にペンを走らせた。

唯智が跡部に寮の庭で抱きしめられていたことを仁王に知られてから、彼との接触はこれが初めて。

気まずい空気が漂う。


「…なんか芥川に用か?」

『いえ……ジロー先生がいないならいいです。』

「芥川の元に来たってことは部屋で何かあったとか?」


舎監歴が長い仁王はだいたいのことを察してそう言った。

仁王は人の考えやそれまでの経緯を推測するのが得意であり、当たる、または鋭いのだから感心する。


『部屋の電気がチカチカしてて……』


そう遠慮がちに言うが唯智は慌てて付け加えた。


『でもいいです!また明日とかでも。』


素早く立ち去ろうとしたがそれは仁王の発言で阻止された。


「いいわけないじゃろう。目、悪くするぜよ。それに気分も悪うする。今から変えちゃるよ。」


親切で言ってくれたのかもしれないが、唯智の眉の端は下がっていた。


『…ありがとうございます。』

「お安いご用です、」


仁王は新しい蛍光灯を手に持ち、唯智の後ろを歩いた。

後ろから仁王が付いてきてる、それだけで唯智は逃げ出したくなった。

電気をつけ、部屋に仁王をあげると彼女は電気を指さした。


『これです。』

「あー…よくこんなんになるまでほったらかしにしとったのう?」

『なんだかもったいなくて…もう少し我慢しよう、とか思っちゃうんです。』

「そういうんは貧乏性じゃき。」

『ものを大切にする、って言ってください。』

「はいはい、失礼しました。」


仁王は自然な笑みを唯智を向けていた。

それを見た唯智の胸がキュッと縮まるような、苦しくなるような感覚と熱を覚えた。


「イスに乗っかってもよか?」

『あ、はい。』


仁王は唯智の部屋にあったイスに立つと電気の蛍光灯を交換し始めた。

黙々作業する中、暗い空気と重い沈黙に耐えられなくなったのは意外にも仁王だった。


「そういやぁ…」

『はい、』

「跡部と仲良うしちょるん?」

『………』


いつかの夜の出来事、跡部とのことを自分が見たことを話題として取り上げ、口を開いた。

しかし、それは仁王の勝手な思いこみであり、真実は知らないのだった。


「ま、跡部相手なら間違いはないのう。ただ生徒と教師やからうまく行かんこともあるじゃろうけど……よし、できた。」


蛍光灯の交換を終えてイスから降り、唯智を見てギョッとした。


『……っく、…ぐす、』

跡部からは避けられ、仁王からも避けられていた唯智は寂しい気持ちが増していた。

彼女が仁王を好きだとしても、仁王は誤解をしていることになる。

逆に跡部を好きだとしても、跡部からは完全に避けられている。

どの道を考慮しても展開はよろしくなかった。


「わ、悪かった。泣かんでくれん?」


泣き止ませようと試みるが無理だった。

話題を間違えたか、と後悔するが後の祭りだ。


『せ、んせ…のバカ!』


唯智は泣きながら部屋を出ていってしまった。

それを見た仁王はその場にズルズルと座り込んだ。

そして床を一発殴り込み、唇を噛んでいた。


「なん、でなんじゃ?」


傷つけたくて言ったんじゃないのに、と悔しがる仁王。

自分の不器用さにいい加減嫌気がさしていた。


一方、それを見守るように丸井が廊下から唯智の部屋の中をのぞいており、隣には仮眠から目覚めた芥川もいた。

半ば呆れながら丸井は言った。


「学生時代、詐欺師って異名を持ってたくせにアイツ、自分を騙すの下手だな?」


それを聞いていた芥川は負けずと言う。


「まだ仁王はマシだC!跡部なんか学生時代はプレイボーイだったくせに唯智のこととなるとそのテクニックは通用しないんだもん。かっちょ悪〜」


丸井は芥川に今はそっとしておこう、と耳打ちして唯智の部屋を離れた。


「丸井くんは誰の味方?やっぱ仁王?」

「いーや?」

「じゃ、まさか跡部?」

「んなわけねぇだろい?」

「なら……唯智?」

「そういう芥川はどうなんだよ?」


そう聞かれ、芥川はヘヘッと無邪気に笑って言った。


「俺は欲張りだからみんなに幸せになって欲しいんだ!」

「マジで欲張りだな。」


丸井は苦笑したが気持ちは分かる、と小さく呟いた。


「跡部にも、仁王にも、唯智にも。俺はみんなの味方すんの!」

「じゃ、俺も右に同じってことで〜」


丸井も先の芥川のように無邪気に笑うと舎監室に向けて走り出した。

それを見て、芥川も走り始めた。


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