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12話 ごめん


跡部は唯智との散歩がてら食材の買い出しに付き合うことにした。


『付き合わせてしまってすいません。』

「気にすんな。俺は唯智といると楽しいんだから。」


唯智はドキッと胸がときめいたのだが、次の跡部の言葉で一瞬にして熱くなった頬の熱が冷めた。


「見てて飽きない。動物みたいで、」

『ひどいですよー!!』


頬を膨らませて先へ先へと歩き始めた唯智を見て跡部は笑っていた。


「なぁ、唯智?」

『はい?』

「もし、仁王に彼女がいるって聞いたらどう思う?」

『……なんで仁王先生なんですか?』

「どう思うのか気になっただけだ。」


明らかに動揺した声の調子に跡部は質問を誤ったと反省した。

唯智は疑うことなく、仁王に彼女がいると思ったかもしれない。


『……跡部先生は?』

「あ?」

『跡部先生はいるんですか?』

「夜、唯智に付き合ってる時間があるんだぜ?」

『だからなんですか?』

「……いないって言ってんだよ。」

『あ、そうなんですか。すいません…』

「謝るなバカ、」


跡部は唯智の隣に並ぶと彼女の顔をのぞき込んでふと笑った。


「別に暇だから散歩に誘ってる訳じゃないからな?」

『え?』


このとき、すでに跡部は唯智を恋愛視していた。

それに対し、唯智も少なからず次の言葉に期待しただろう。

しかし過去、告白される度に口癖みたいに言って断ってきた生徒たちへの言葉を思い出した。


“俺は教師だ”


それは今も変わらない状況。

唯智にも当てはまる言葉であることに気づき、胸を痛めた。


「俺が教師で唯智が生徒だからだ。」


“相手が唯智だから”


そう言えたらお互い少しは傷つかずにすんだかもしれない。

しかし、遅い。


『生徒、……そうですよね!』


いきなり笑いながら歩きだした唯智を見て跡部はますます胸を痛めた。


「唯智!」


持っていたスーパーの袋がガサガサと音を立てた。

跡部は唯智の腕を引き、力強く抱きしめていた。


「泣くなって、」

『……いてません。泣いて…ません。』

「嘘つけよ。泣いてるだろうが。」

『…んで…跡部先生にはバレちゃうのかな……な、んで…私――』


“生徒なのかな”


唯智は心の中で続きを言った。

跡部はなにも言わずに彼女を抱きしめ、彼女もまた黙って抱きしめられていたがその時、仁王がその場にいたことなど二人は知る余地もなかった。

跡部が唯智を本気で狙いにかかっているらしいと忍足から聞いた仁王は彼らを探し回っていたのだ。


「…やっぱり跡部なん?」


寮の庭を通りかかった時、二人をようやく見つけることができたがそこには抱き合う二人の影があった。

仁王は柄にもなく落ち込んだが唯智をしっかりと視界で捕らえていた。


『……あ、』


唯智が跡部の肩口から顔をのぞかせると仁王と目があった。

彼女の困惑した表情を見た仁王は舌打ちをしてその場を走り去った。


「誰かいたのか?」

『………み、たいですね。』


“仁王に見られた”

胸が痛んだ唯智は複雑そうに顔を歪めた。

それを見た跡部は自分のせいで彼女を苦しめてしまったのだと感じ“教師と生徒”であることを再び思い出す。

跡部は「悪い」とだけ言い、唯智から手を引いた。


「帰るぞ、」

『は、はい。』


ぎこちない空気が二人の間に流れることとなった。

跡部が唯智を抱きしめたことで、そして仁王が目撃したことで三人の関係がギクシャクすることになってしまった。


→NEXT


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