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10話 素直じゃない


噴水から上がる唯智を見ると仁王はすぐに部屋を出た。

一方、跡部は唯智が部屋に戻る前に自分の部屋へ寄るように言う。


「濡れたままだと風邪をひく。」

『すいません、』

「俺が水に突っ込んだんだから気にするな。」


唯智は跡部の自宅へ入れてもらうと意外とシンプルな作りであることに安心していた。


「なに突っ立ってる?」

『あ、いや…意外とシンプルだったので…』

「ごちゃごちゃしてるのは好きじゃないんでな。」

『へー…?』

「ほらタオル、」

『あ、ありがとうございます。』


タオルで髪を拭いていると跡部はジッと唯智を見つめた。


『なんですか?』

「……無理はするなよ?」

『え?』


静かにそう言うと唯智を抱き寄せ、頭をポンと軽く叩いた。


「なにかあったらいつでも俺に言えよ?」

『わかりました……』


ぎこちなく唯智が言うと跡部はのどを鳴らした。

そして手をとり、握った。


「緊張してるのか?」

『だ、だってぇ!』

「はいはい。慣れないことに緊張してるんだろ?手が震えてる。」

『……………』

「なにもしねぇよ。」


跡部はそういうと手放し、唯智の背中を押した。


「部屋まで送る。」

『いいですよ。ここで、』

「そうか。じゃあ…ここで悪いが、」

『いいえ。ありがとうございました。おやすみなさい、』

「あぁ、おやすみ。」


挨拶を交わすと唯智は跡部の部屋から自分の部屋へ移動した。


『はぁ、』


自室に来るとズルズルと座り込むと借りたタオルから香る跡部の匂いに頬を赤く染めた。

跡部の優しさを日々感じている彼女は確実に跡部に惹かれていた。



一方、居留守を使われる日々に痺れを切らせた仁王は舎監長室に来た。


「ちょ、なにしてんのさ!?」


そして、舎監である芥川から唯智の部屋鍵を奪った。

芥川はもちろん奪い返そうとしたが勢いのついた仁王を止められはしなかった。

止まることなく、彼の足は唯智の部屋へ向かった。

部屋の前までくると一呼吸置いてから迷わず鍵穴に鍵を差し込んだ。


『……?』


部屋が真っ暗なため、唯智はドアの方を眩しそうに目を細めていた。


『跡部…先生?』

「っ!」


仁王は唯智の目の前に映る人物が自分ではなく、跡部であることを知ると耐えきれず彼女に近づく。


「のう、なんで俺を避けるん?」

『に、仁王先生!?』

「俺、唯智になにかしたか?」

『そ、いうわけじゃ…』

「ならなんでなんじゃ。なんでこんなことするん!?」


納得がいかないためか怒鳴る仁王に唯智は怯えるだけだった。

仁王に掴まれた腕に痛みが走り、彼が本当に怒っていることを唯智は全身で感じ取った。


『ご、め……なさい。』

「………………」


なぜそう本気で怒っているのか理由もわからず、唯智は謝り続けた。

恐怖のあまりに涙がこぼれた。


「……悪い、悪かった。」


ハッと気づいたときには唯智は泣いていて――仁王はただ後悔するだけだった。

そして、唇は噛みしめて血が出、体の横で作られた拳は震えていた。


「(泣、かせた……俺が…俺が泣かせたんじゃ。なにしとうよ自分!!)」


自分に嫌気がさした仁王は逃げるように慌てて唯智の部屋から飛び出した。


→NEXT


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