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9話 抑えられぬ怒り


その日の夜、仁王はいつもどおり唯智の部屋へ来た。

しかし、何度ノックしても彼女が出てくる気配も様子もない。

たまたまそこを通りかかった芥川に唯智のことを尋ねるが芥川も知らないらしい。


「玄関で見張ってたけど唯智は外に出てないC。」

「おまえさんが寝ちょっただけじゃなか?」

「いや、寝てないから!今日は、」

「……具合でも悪いんかな?」

「だったら寝かしとけば?」


芥川に促されて仁王はその日の散歩を諦めた。

その日、唯智は暗い部屋でひたすら“日記さん”とメールをして一日を終えた。

その翌々日。


「……またか。」

「なにがまたなんスか?」

「のう、赤也。おまえさん、今日は唯智に会うたか?」

「俺は会ってないっスけど、丸井先輩は会ってたみたいっスよ?」

「……丸井は今授業中か。」

「なんかあったんスか?」

「……鍵かかっとう。」

「え?マジ?」


切原がガチャガチャと荒々しく扉を扱うが開く気配はない。


「昼間だから部屋にいないのはおかしいですよ!」

「こないだから鍵かかりっぱなしなん。」

「へ?でも今朝、跡部さんこの部屋に入ってたっスよ?」

「………………」


切原は閃(ひら)いた!と明るい声で言わんばかりに口を開いた。


「仁王先輩、避けられてるんスよ〜!うははは!」

「ッ、」


廊下にゴンッと鈍い音が響いた。

頭を押さえながら切原が仁王を見ると気に入らないことの展開にイラついているようだった。


「(珍しく本気で殴られた。痛ぇし…マジで唯智の奴、仁王先輩避けてんのかな?)」


納得がいかないのは切原も同じであり、今かかったストレスは格ゲーで発散されるのだった。



唯智が居留守を使っていると仁王はすぐに感づいた。

しかし、どうもその対象になっているのは自分だけだとわかると冷静ではいられなくなる。


「またか、」


仁王は数学を担当しているため、居留守のせいで数学だけ進まないようじゃ困る、と判断した仁王は授業を忍足に任せてみた。

仁王がこの日、現れたのは散歩に連れ出すため――しかし、唯智はまたも出る気はないらしい。

仁王は仕方なく様子を見ようと部屋に戻った。
それを陰で見ていた跡部はマスターキーを手中で握り、唯智の部屋に来た。


「唯智?」

『あ、はい。』

「行こうぜ?」


跡部に手を引かれ、唯智は周りに人がいないか気にしながら外に出た。

無事に裏庭まで出るとそこにある噴水を見るなり走っていく姿を見て跡部は微笑んだ。


『跡部先生?ここの金魚、冬はどうしてるんですか?』

「あぁ、ジローが全部すくって寮に持ち帰って世話するんだ。」

『へ〜?』

「……唯智?」

『はい?……え?え?ちょ…っ!』


唯智は噴水に投げ入れられ、ドボーン!と水しぶきを上げた。

それを見て笑う跡部がいた。


『先生のバカー!!』


手で水をすくい、跡部にかける唯智。

それを見てまたも彼は笑った。


「冷てぇ!」

『お風呂入らなくちゃ…さっき入ったばかりなのに…』

「風呂ぐらい俺が入れてやる。」

『エッチ!』

「はいはい、」


跡部たちが楽しそうにしている姿を窓から見ていた仁王の表情は冷たかった。

一方、何も知らずに仁王の部屋を訪れた丸井。


「おい仁王、入るぜ?あんさぁ?ここのー……!」

「…………」

「(……やべぇ、今声かけたら俺は絶対殺される。)」


しかし、身の危険を感じ、静かに仁王の部屋の扉を締めて慌てて逃げたのだった。


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あきゅろす。
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