0話 プロローグ
太陽の下に出られないという、18歳(高校3年生)の女の子、天紫唯智。
生まれつき肌が弱く、太陽の下にいると肌があっと言う間にやけど状態になる。
成長していくにつれ、状況は変化したかもしれないが今でも唯智は太陽を恐れ――トラウマとなっている。
そのため、日中通うべきである学校には行かず、カーテンを締め切り、部屋に隠(こも)る日々を送っていた。
そんな事情があり、普通高校には通わずに通信制の高校に2年間通った。
「唯智〜!」
『がっくんだ!』
「エ○ドールのケーキだぜ☆」
『ありがとうv』
家族に対してでさえ申し訳ない気持ちで一杯な唯智にとって、どこか他人事である親戚の向日岳人は気軽に話が出来る唯一の相手だった。
「うまい?」
『うん!』
「よかったー!!」
いつもなら店番をサボり、息抜きがてら向日が部屋に訪れるのは昼間なのだがこの日の訪問はなぜか日が沈みかけた夕方だった。
「なぁなぁ、唯智?」
『なぁに?』
「俺の学生時代の友達がさ?高校の教師してて、そこの学校は寮制なんだ?それで教師も夜に見張りで泊まったり、そこにある社宅に住んでたりしてんだよな?」
『へ〜!』
「それで唯智の話したら、うちの学校来いってさ!」
『!?、むごっ!』
「お、おい、詰まらせた!?おばさん水、水ー!!」
話聞き、驚きのあまり噎(む)せた唯智は慌てて水を持ってきた向日に助けられた。
「……平気?」
『だって、私……』
「まぁ、話聞けって?それで、そいつら唯智を優待生として転入させてくれるって!」
『う、嬉しいけど、私は普通の生徒みたいに通えないもん…』
「話聞いてなかったのか?特別に、優待生として、受け入れてくれるんだって!」
『いきなりそんなこと言われても……』
「へーきへーき!実はもうおじさんたちに話付けてあるし、喜んでたし?」
『よ、喜んで!?』
「よし、荷物まとめて行くぞ!!」
向日はクローゼット内から大きな旅行鞄を取り出すなり、必要そうなものを片っ端から突っ込んでいった。
『きゃー!!』
「なんだよ?」
『下着は自分でするー!』
「もう突っ込んだ後だし(笑)」
ケラケラと笑う向日を恨むことも出来ない唯智は愕然とした。
下着を見られたのだから仕方ない。
気に留めることなく向日の手は止(とど)まることを知らずに動かした。
「よっしゃー!行くぞー!!」
準備が出来るなり、向日は唯智を連れて外に飛び出した。
人の気も知らず、自慢の赤い外車を目的地まで鼻歌を歌いながら走らせる向日。
ちょっと迷惑だ。
『(どうなっちゃうのかな…?)』
不安を募らせるが残念なことに車は止まりはしないのだ。
しかし、唯智の表情はそう暗くはなかった。
なぜなら、今までは人と接する機会があまりなかったため、これからの出会いに期待が膨らんだ。
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