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Rainy tears


氷帝学園のエスカレーターで高等部への進学を望まなかった私を母は不思議がっていた。


「エスカレーターなのにわざわざなんで?」


それもそのはず。

母にしたらくだらない理由だと思い、なにも言えずに市立高校を受験したのだから。


『親不孝者だな。』


みんなにしたらなにも変わらないだろう卒業式の日。

泣いている人はあまりいないのが証拠。

でも、私は違う。

卒業式が氷帝生活最後の日だった。


「おい、明良。」

『あ、跡部…』

「なに湿気た面してやがる。」


私が他校受験したことを知る人間は一人もいない。

もちろん跡部も。

跡部に背を向け、なんでもないよ、と言った言葉とは裏腹に涙が溢れた。

生憎の雨で旅立ちの日とは言いがたい天気だったけど私には好都合だった。

涙を流していると気づかれぬよう雨の中へ駆けていく私と引き留めようとする跡部。

私はかまわず走り、立ち止まり、振り向いた。


『跡部ありがとうー!』

「…なにバカ言ってやがる。おまえの世話をするのは高等部にあがっても同じだろ。」


あなたがとても好きだった。


『じゃあ入学式でね!』


でも、それは終わり。

高見を目指すあなたのそばにはもういられない。

邪魔をしたくない、足手まといになりたくないの。


「おい、まだなのか?」

『まだ…って、痛い!』

「ちんたらすんな。俺様が暇だ。」


いつも高いところで結っていた私の髪を引っ張ってたね。

でも、その髪はもう必要はない。


「本当に切っちゃって良いんですか?」

『…はい。』

「綺麗なのにもったいないですねー」


だから卒業式後、美容室に向かって髪と跡部への思いをバッサリ――


『(さよなら、跡部。)』


切った。



その年の春、私は今までとは全く違う色やデザインの制服を着て、新しくできた友達と時を過ごしていた。


「明良、明良!大変なのー!」

『どうしたの?』

「他校の男子が校門に来てるの!」

『他校…?』


知らせに来てくれた友達に背中を押され、私は校門に来た。

そこには風にネクタイをなびかせ、不機嫌そうに顔を歪ませた跡部がいた。


『あ、とべ…』

「よぉ、明良。久しぶりだな。」


嫌みを含んで彼はそう挨拶した。
春休み中、跡部からの連絡を無視し続け、入学式で私の姿を見なかったために探していたのだろうか。

彼の表情は不機嫌というより怒りに満ちていた。


「どういうことか説明してもらおうじゃねぇか。」

『…関係ないじゃん。』

「関係ない、ね…ずいぶん冷たいもんだな。俺とおまえの関係ってそんなくだらないものだったのか?」


そういえば、一年生のときから三年間ずっと同じクラスがだったね。

必然と関係は深まっていただろう。


「氷帝が気に入らないのか!?」

『違うよ。』

「なんで髪切っちまいやがった!?」

『それは…』

「俺はなにも聞いてねぇ!!」


浅はかだった。

彼がこうまで必死になった理由が自分にあることに気づけなかった私はなんて愚かなんだろう。


『ご、めん…ごめん跡部。』


跡部はなにも言わずに私に手を伸ばし、抱きしめた。

腕の力強さを感じ、心音を聞き、安心して涙が出た。


「俺には明良が必要だ。」


彼の言葉により、まるで雨みたいに多くの涙の粒が滴った。





Rainy tears
雨で誤魔化した涙の意味を彼が知ったら怒るだろうな





** END **
#2008.2.18



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