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良薬、口に苦し


電話越しに聞こえたのはくしゃみの合間に風邪菌でのどを痛め、ガラガラになった明良の声。

咳ばかりしているため、なかなか話が進まない。


「で?風邪はどうなんだよ?」

『な、んかまだ…はっくしゅん!…鼻水出た、』

「かめばいいだろ。」

『待ってね。』


そういうと携帯電話を手放したようで、受話器越しに鼻をかむ音が聞こえた。

明良が風邪をひきこんで早3日。

いい加減、彼女の元気な声が聞きたくなってきた。


『ごめん。で?今日も心配してくれたんだ?』

「学校こねぇんだもん。当たり前だろ?」

『…ありがと、』


鼻声でも彼女が照れてるのだけはわかった。

それだけは明良を観察して、聞いて、よく知っている証拠だろう。


「それはいいとして、」

『なに?なにか問題あるの?』

「ある。会いたいから見舞いさせろ、」

『風邪うつるからダメ!』


明良が学校を休んだ1日目。

電話だと辛いかと思い、都合が良いときに見れるようにメールで見舞い。

それに対しての返信で大したことない、と言ったくせに3日目になっても明良は学校にこなかった。

そんなにヒドいのか、と心配して3日目(つまり今日)には電話をかけた。

かなり辛そうな咳をしている。

暖かい格好で薬を飲んで寝てるから少し良くなったとはいうが、状態は変わらないんじゃないかと思う。


「あのよ、俺も心配なわけ。」

『でも風邪うつるからダメ!』

「じゃ、明良の母さんにあげてもらう。」

『え?無理!お母さんー!!』


明良はすぐに俺を家にあげないように言うため、自分の母親を呼びつけた。

しかし、家の呼び鈴が鳴ったため、母親は明良の部屋ではなく、玄関に向かった。


「あら、跡部くん。わざわざ…」


携帯の受話器と玄関からリアルに聞こえたであろう俺の声に明良が不機嫌そうに顔を歪めたのは見なくてもわかる。

そう、俺が呼び鈴を鳴らしたのだ。

3日も明良に会えないとなれば俺も我慢の限界だ。

母親に案内してもらい、明良の部屋を訪れた。


『最悪、うつるって言ったでしょ?』

「平気だ、」

布団を深く被る明良のベッドの縁に座り、髪を撫でた。

少し熱っぽいのか目が潤んでいた。


「咳止め飲んでんのか?」

『う、ん…ごほっ、ごほっ、』

「熱下がれば学校くんだろ?」

『うん、行く。』


サイドテーブルには薬が置いてあった。

それを見て俺はひとこと言う。


「これ、効くのか?」

『薬だから効くんじゃない?』

「3日飲んでダメなら違う方法試したらどうだ?」

『違う…?』

「人にうつせば早く治るんだぜ?」

『…それは!』


有無を言わさず、唇を塞いだ。

なにか文句言いたげな明良に言う。


「効かないまずい薬飲むより、キスして早く治るほうが俄然いいだろ?」

『景吾のキスが良薬なら、かなり甘いかも。』

「だろ?」


なんて明良を言いくるめたが本当は――





良薬、口に苦し
俺が明良にキスしたかっただけ





** END **
#2008.2.1


あきゅろす。
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