子羊とオオカミ
夕食後、一人暮らしの私は癖のようにテレビの電源に指を伸ばした。
リモコンですべての数字キーを押したけど興味をひく番組も面白い番組も特になくてすぐにテレビを消した。
学校で出された宿題は訳の分からない元素記号が並んでいて、解読不明なため放置した。
『つまらない、』
そう呟いた時、チャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう、と考えて玄関に向かった。
『はーい、』
のぞき窓から外の様子を見たけど真っ暗だった。
それほどまでに辺りが暗いのだろうか?
いや、そうとも考えにくい。
『どちら様?』
そう尋ねれば、相手はこう言った。
「明良せんぱーい。俺っス!切原っス!」
『あ、赤也?こんな時間にどうしたの?』
「たく、なんで今日はこんなに寒いんだよっ!仁王、マフラー貸せ!」
「やめんしゃい。俺かて寒いん、」
どうやらテニス部のいつもの三人組、赤也とブン太と仁王がドアの向こうにいるらしい。
乙女(これでも一応)の家に男が訪ねてくるなんてあまりよろしくない。
前に“俺を含めて、の話だけど男はオオカミだから気をつけるんだよ?”と、狼を代表して幸村が警告してくれた。
『(あれは警告だったのか、狩りの宣言だったのか怖くて今更聞けないんだけど。)』
まぁ、思春期真っ直中の私たちだし、警戒は怠(おこたら)らない。
夜は特に。
ドアは開けないことを心がけていた。
「先輩!寒いっスよー」
「つーか、明良!おまえに渡すもんあって来たんだぜぃ?」
「下のポストに入れといてもいいならそっち入れときますけど?」
うちのアパートはドアにポストがない。
たぶん郵便屋さんの手間を考えて、アパートの全部屋のポストを一カ所にしたのだろう。
『(せっかく来てくれたしな…)』
寒い中、わざわざ私の部屋を訪ねてきた三人に“下のポストで良い”と言うのはなんとなく申し訳ない気がした。
『今受け取るー』
私は幸村の警告をよそにドアの鍵を開けて扉を開けた。
そこには仁王がいたのだけど俯いているため、見えるのは端が上がってる口元だけ。
彼の両隣をすぐに確認するけど赤也とブン太の姿がない。
はめられた!
そう感じた私はすぐにドアを閉めた。
しかし、それに対し、仁王がドアを掴んだためそれは虚しく…
「ヒドい反応じゃのう。傷つく、」
『騙しといてなんて言いようなの?…で、何か用事?』
「腹減ったから、なんか食わして明良?」
そう言った仁王が艶やかに笑うから胸が跳ねた。
部屋にずうずうしく上がり込んだ仁王は靴を適当に揃えるなり奥へ進んだ。
私は諦めて、ドアの鍵を締めて仁王に続いた。
見れば彼は制服のネクタイを緩めていた。
『なにしてんの?』
「見てわからんの、可愛い子羊さん?」
そう言うと仁王は私に指先だけで手招きしていた。
子羊とオオカミ
きっと、彼のディナーは私だわ!
** END **
#2008.1.30
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