横断歩道
彼女が出来た。
付き合ってから1週間が経っていた。
学校の休み時間には頻繁に顔を会わせたり、明良は部活が終わるのを待っていて一緒に下校したりしていたことからすれば、恋人らしいかもしれない。
交際は順調と言えた。
しかし、初めて付き合ったためか明良に対して少し緊張していた。
これはある日の下校時に経験した話。
『点滅しちゃったね、』
「タイミング悪いな。」
横断歩道を渡ろうとした手前、歩行者用の信号が点滅し、横断を諦めて次に信号が変わるのを待つことにした。
二人、並んで立ってはいたが互いに距離があった。
この距離はそのうち縮まるだろうとは思っていたがなにかきっかけはなければならない。
ふと目の前の信号が変わると隣の明良を見た。
しかし、どこか違うところを見ているらしく、信号の変化に気づかない。
「信号変わったぜ?」
声をかけたが彼女の視線が俺に向くことはない。
その視線の先が気になり、目で追うと幼い子供を連れた母親が横断歩道を手前にして立ち止まっていたのだった。
「信号渡るときはどうするの?」
「みぎをみて、ひだりをみてー」
「それから?」
「ママとおててをつなぐー」
「よく出来ました!」
手を握られ、横断歩道を渡る幼い子供をどこか羨ましそうに見ている明良。
そんな彼女を見てふと笑った。
「明良?横断歩道を渡るときはどうすんだよ?」
『…え?』
そう尋ねてから明良に手を差し出した。
するとゆっくり手を握った彼女。
『景吾と手を繋ぐ、』
「よく出来ました。」
繋いだ手が熱くなる。
こんなことで緊張している俺はまだ青かったな。
『景吾の手、暖かい。』
もしあのとき、あの親子に会わなければ、明良と距離を縮める機会はいつきていた?
そう考えるとまだ俺のことを知らないうちでよかった。
明良も彼氏に慣れていないうちでよかったな。
今じゃ、緊張もないが…
あの頃は本当に精一杯だったな。
横断歩道
それは若かった俺らの甘酸っぱい思い出
** END **
#2008.1.25
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