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擦り切れたラブレター


“明良がだれよりすき!”

幼いときに受け取った色鉛筆で書かれた小さな手紙の言葉にどれだけ助けられたかわからない。

それは唯一彼に関して残る大切なもの。


「んだよこの擦り切れた紙。」


その日、学校に着いて早々、疲れきっていた私は自分の机に定期を放り投げた。

その定期に挟まっているボロボロになった紙を見て、隣の席の跡部が声をかけてきた。

定期に触ろうとするものだから、慌てて両手で拾い上げ、懐に抱いた。


『これは忘れられない人からの大切な手紙なの、』

「ふーん?」


いつも小さく折り畳んで定期入れに入れて持ち歩いているくらい大切な思い出。

辛いことがあるとこの手紙を見て、自分が幼いときに味わったものに比べれば大したことない、と言い聞かせた。


「そいつのこと好きなのか?」

『私、彼が好きなんて言えた立場じゃないんだ…』


思い出せば辛くなる。

毎日手を繋いで幼稚舎から帰るくらい仲良しだったのに小さなことでケンカしたまま、彼は遠くに行ってしまった。

中等部3年になった私は今になって激しく後悔している。


「なんか事情があるみてぇだが、今からでも間に合うんじゃねぇか?」

『…行き先も知らないし、名前も覚えてないの。最低でしょ?好きだったのにさ?』

「ま、最低かもな。」

『はっきり言わないで。傷付く、』


そう言えば、跡部はのどを鳴らしながら笑った。

人事だからって楽しんでるようにも思えた。


『この気持ち、跡部にわかるわけない。』

「さぁな?」

『好きな人と離れる。しかも、ケンカ別れなんてしたことなんかないんじゃない?』

「……あるぜ?ガキん時にな、」


そう目を伏せて寂しそうに笑う跡部を見てから思い出した。

跡部が中等部1年になる春、アメリカから氷帝学園に来たことを。


「俺も早苗と同じで名前も顔も覚えてねぇんだよな。」

『同じなんじゃん…』

「だが、手紙だけは持ってる。」


財布を鞄から出すと私と同じように小さく畳まれた紙を取り出して見せた。

それを見て、悟り、また感じた。


「まさか、早苗。おまえが俺様の初恋相手だったとはな。」

『う、そ…』


当時流行っていたのは2枚の手紙の端を合わせたときに1つの絵になるというもの。

2枚の手紙を切り離す前、中心部にあるものを書き、それから切り離した。

ませていた私たちは2枚で一つのあるものが出来るように描いた。

それはハートだった。


「こんな近くにいたとはな、明良…」


“景吾くんだいすき!”

名前を呼ばれた瞬間、あの時の幼い頃の淡い恋心は急成長を遂げた。





擦り切れた
ラブレター

時は流れても気持ちはあのまま





** END **
#2008.1.22



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