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強がりだから守りたい


乱れた服を軽く直して彼女を見た。

たった今、曲がり角で出会い頭に何者かに格闘技の技をかけられ、左肩を痛めたところ。

それが同じクラスの早苗明良だというのだから驚きだ。


『ご、ごめん!平気?』

「なにをしてたの?」


そう尋ねるや眉をしかめた彼女を見て、なにか事情があるのだと気づく。


「ま、イヤなら言わなくていいけど相手確認してからにしてくれよ?おかげで俺、左肩痛めちゃったよ。もちろん俺の左肩の責任とってくれるよね?」


微笑んでみたけど今の俺はきっと目が笑えてないと思う。

脅したつもりはなかったけど、肩を痛めたため、早苗明良が俺の片腕となることになった。


『あーまた机汚してるし。もぉ!私がやっとくからあなたはそこにおっちゃんこしてなさい!』


彼女を見ていると強気でしっかりしているからなんとなく宍戸さんを思い出す。


「(頑張っちゃって…可愛い。)」


腕は数週間でトス(テニス)が出来るまで良くなったというのに俺はいつしか彼女を“片腕”という理由ではなく、一人の女の子としてそばに置いておきたいと思うようになっていた。

そんなある日の話――


「明良、こっち持ってね?」

『長太郎、人使い荒い〜!』


気が強く、男の俺よりしっかりしていて頼りになる――明良はまさに姉御肌。


『こんなに持たせるなんて〜鬼!』


なのに変なところで女性らしさを発揮し、ヒィヒィ言いながら俺の後に付いてくる彼女を見てふと笑いが漏れた。


「わかったわかった、持つよ。」


持たせた資料を明良から奪い、歩き始めた。


「女の子にこんなに持たせちゃ、俺も男としてダメだよね。」


なんて言って明良の顔をのぞき込めば理由はわからないが顔を赤らめていた。


学校が終わり、お互いなにもない日(水曜日)は一緒に帰っていたのにその日、明良は忽然(こつぜん)と姿を消した。

全く、なんて文句を漏らしながら一人寂しく帰路を歩く。

しかし、その道がたまたま工事中で回り道を強いられ、仕方なく別ルートを歩くことになった。

だから、あの日に明良がなにをしていたのか理解できた。


「あ、明良。」


なにかから逃げるように走る明良が前方に見えた。

その後を付けるように男が一人。


「なるほど。ストーカー退治したかったのね。」


納得して数回頷き、すぐに彼らの後を追った。

行き場のない明良に手を伸ばすストーカー男を見て虫酸(むしず)が走った。

逃がす前に退治してやろうと走り寄り、足を高く上げて一気に相手の肩に振り落とした。

すると音を立てて男はその場に倒れた。

護身術は身に付けていたがまさかこんな風に役に立つとは思わなかった。


『ちょ、た…ろう……』

「先に帰っちゃって心配したんだから。なにしてたのさ?」

『か、関係ないでしょ、長太郎には。』

「もし助けにこなかったら!……でも、明良になにもなくてよかったよ。」


ホッと安心して胸をなで下ろすと俺は踵を翻(ひるがえ)して歩き始めた。

もう一つ足音が聞こえてこないから立ち止まり、帰らないの?と尋ねた。


『……なんで助けてくれたの?』

「人を助けるのに理由なんかいる?」


腑(ふ)に落ちないという表情を見せた明良を見て、微笑んだ。


「今までたくさん助けてくれたし。それに明良は強がってるけど、今みたいに危ない目に遭ったらやっぱり女の子だから。助けてあげなくちゃ。」

『義務感ゆえ?』


明良の手を左手で握って再び歩き始めるたとき、一言だけ小さな声で言った。


「明良だから守りたい、って思ったんだ。」


きっと、今の言葉が耳に届いた明良は顔を真っ赤にしているだろう。

今はからかったりしないよ。

本気だとわかってほしいから――…





強がり
だから守りたい

繋いだ手から俺の気持ち、悟って?





** END **

2007.7.29

NO.12345
あいり様



あきゅろす。
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