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やっと抱きしめた


好きだ。

おまえを愛しく思う。

でも、ずっと抱きしめられなかった。


『景吾ーなんか食べたいー!』

「腹減ったのか?」

『いや、なんとなく。』


私たちは幼なじみだから逸脱し、恋人になったばかり。

昔から知っている彼女を女としてみるのは意外と簡単だった。

しかし、相手はそうとは限らない。

そう考えると“抱きしめて良いか?”もしくは“抱きしめたい”なんて言えない。

付き合いだして1ヶ月が経つが未だに手を繋いだことも、ましてやキスもしていない。


「なんでもいいぜ?甘ったるくなければ、」

『えーと…パフェとか、』

「突っ込みたいことが二つある。」

『なに?』

「冬にパフェなんか食べねぇだろ。」

『私は食べるの!』

「さらに言うと今の話聞いてたか?」

『甘さ控えめで注文すれば?』

「バカ!それじゃあパフェじゃなくなるかもしれねぇだろ?」


こんな子供臭いやりとりも昔と変わらない。

恋人同士と感じさせない会話に時折切なくなるが、昔と話す内容や調子が変わってしまえば寂しくなるだろう。

それも問題だ。


『なら、肉まん!』

「はいはい、」

『やった〜景吾と肉まん!』


子供臭く跳ねて喜ぶ彼女を見ているとなんだか嬉しくなった。

彼女をこうも喜ばせられるのは俺だけだからだ。


『肉まん〜…のわ!』

「あぶねぇ!」


足を滑らせたのか、急に体勢を崩し、とっさに抱きしめた。

自分でも驚いているらしく、しばらくバクバク言う心音が聞こえていた。


「怪我は?」

『ないよ。景吾のおかげで。』

「はぁー…なら良かった。」


安心して体中の力が抜けた。

しかし依然、彼女を抱きしめる腕の力は緩まなかった。


『あの、』


なにか言いかけたがすぐに口を閉ざした。

俺が彼女の前髪をかきあげ、額にキスを落としたから。


「(ゆっくりでいい。だが今は…)」


どれぐらい抱き合っていたのか。

恐らく、体が冷え始めるまでだろう。

それまで俺は今までの時間を取り戻すように、優しく抱きしめ続けた。





やっと抱きしめた
足下の氷に感謝だな、





** END **
#2008.1.12
企画(甘酸っぱい恋)提出



あきゅろす。
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