恋愛法定速度60`*
形はそれぞれだが、人は必ず恋をする。
そして、手に入れようと躍起になるものなのだ――本当は。
これは俺の場合。
ただ気になるだけと言えば、それで終(しま)いだが、一目惚れと言えば発展していくだろうから怖い。
だから今日も俺は躊躇う。
最近、転校してきてうちの部のマネージャーとなった明良に。
まぁ、今のところ平気だろうが。
『そうそう、注文してたテニスボールが来たから開封しとかないと。』
そう言いながら、一つの段ボールを引っ張り出してきた。
カッターを取り、刃を出し、段ボールのテープを切り始めたが……
「あぶねー!!」
『……なにが?』
誰がカッターの刃の先に手を置くんだよ!!
彼女はそそっかしくて、見てるこっちがハラハラする。
「いい、俺がやる。」
『ホント?ありがとうv』
ニカッと子供臭く笑う明良の頭を思わず撫でてしまった。
「はぁ、たく。しょーがねぇヤツ。」
今となってはそれが俺の口癖だった。
『じゃあ、日誌書いてくる〜』
「お、おい!」
そう言って明良はイスに腰掛けようとしたが、イスを引きすぎたのだろう。
ドスンという効果音付きで彼女は尻餅をついた。
「大丈夫か!?」
『なんとか〜…痛かったぁ、』
半泣きの明良にティッシュを渡してやると涙を拭いた。
「プッ、タヌキになってやがる」
『タヌキ?……あ!』
慌てて鏡をポケットから取り出して見て、涙で滲んだ目の周りのマスカラを見て叫んだ。
「日誌書いてから化粧直せよ?」
『鬼!!』
「はやく書けばいい話だろ、」
明良はささっとマスカラを拭いて机に座り直した。
俺はペンを走らせ始めたのを見て、雑誌を開いた。
しばらくしてからだ。
『跡部、見よこの傑作を!』
見せてきたのは日誌の空きスペースに書いた俺の似顔絵。
「似てねぇよ、」
『似てるよー!この顎の辺とか。』
「顎かよ。」
『だって〜毎日イヤってほど見てるもん。』
そう言われ、少し胸が痛んだ。
部活でいつも顔を合わせるということはわかっていたが。
「イヤなら見てんじゃねーよ、」
『ん?イヤじゃないけどね。』
「さっきイヤって言ったじゃねぇか。」
『嘘も方便って言うじゃん。』
「おまえの場合、なにが本当でなにが嘘かわからねぇんだよ。」
『じゃあ、ホントっぽいこと言ってあげる〜』
「ぽいのかよ。」
呆れて俺は雑誌に目を落とした。
だって、なにも期待していない、好きでもないんだから。
『私、跡部のこと好きだよ。』
思ってもないことを言われ、雑誌を手から滑り落としてしまった。
『なにその顔、』
「……いや、なんでもない。」
『なんだよー本当のこと言ったのにー!』
ぷーっと頬を膨らませ、日誌にペンを走らせた明良。
彼女が正面にいる、それだけで胸が高鳴った。
「俺、……まさか、」
『なんか言った〜?』
「なんでもねぇよ。いいから、さっさと書けバカ!」
『バカ言わないで!……よし、書き終わったから帰ろう?』
「あん?本当にちゃんと書いたのか?」
『書いたもん♪』
彼女が日誌を片付けてしまったため、俺がその日誌を読むのは翌日となった。
翌日、俺はみんなにからかわれる結果となった。
なんて書いてあったか?
それはご想像にお任せします。
「走るな、また転けるだろうが。」
『じゃあ、手繋いで?』
ギュッと握られた手から俺の恋は今、ゆっくりと始まったのかもしれない。
きっと、今まで以上に忙しい毎日が待っているに違いない。
恋愛法定速度60`*
法定速度以下の走行は禁じられておりません
** END **
#2007.5.19
企画提出(From A to Z)
『恋愛法定速度60`*』
車を運転するようになり、学んだんです。スピード制限は制限以下で走る分には違反(犯罪)にならない、ということを。
恋愛も同じでしょう。ゆっくり恋をする分にはかまわない。早いより、ゆっくりのがいいんだ。特に跡部みたいなヤツはね*笑
そんな気持ちをこめて…
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