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ダイヤモンドに恋をした


ある日曜日。

テニス部のみんなと過ごす最後の冬休みに思い出を作ろうと言い出した忍足の提案でスキー場に来た。

初心者の私に講師として一緒にいてくれるのはなぜか運動神経の良い男、跡部。

他のみんなはさっさとゲレンデに向かった。


『きゃあ!!』

「おまえスキー以前の問題だな、」


はき慣れないスキー靴で歩けと言う方が無理な話。

それでも初心者ということもあり、大目に見てくれる――というより、わりと優しかった。

でも、滑る前から苦戦してる私を笑ってみてる跡部がいた。


「緩い坂でまずは練習だな。」

『登るの〜?』

「仕方ねぇな、」


私の手を掴んで跡部は坂を登り始め、途中まで来ると指導してくれた。

エッジを立てる―地上(面)に対して体はあくまで垂直であるように言われた。


「ボーゲンで滑降だ。やれ。」

『説明してくれないとわからないー!』

「簡単に言えば板をハの字にして滑んだ。ブレーキが利きやすい。」

『ハの字ね?』

「…お、おい!」

『きゃあー!』

「誰が板先を広げんだよ。ふつうに考えて先を揃えるだろうが、」


滑り降りるにつれ、股が開いていったあげく、バランスを崩し、転けて下まで滑り降りた。

そんな私を見て呆れる跡部。

挫(くじ)けず、それから何度かチャレンジしてみた。


「カービングスキーはバカでも滑れると思ったんだけどな。」

『知らないよ!楽しくないー!』

「………」


尻餅ばっかついてお尻は痛いし、筋肉痛にはなるし、あまり楽しくはなかった。

上達すればそんなことはないんだろうけど。

しかし、よく考えれば楽しくないのは跡部の方だろう。


『みんなと滑ってきたら?私のコーチばっかじゃ楽しくないでしょ?』


まるでいじけてるみたいに口を尖(とが)らせて言った。

ふと跡部を見れば颯爽とゲレンデを滑り降りてくる二人の人を見ていた。

着ているウェアの柄や体格からすると男女、もしかするとカップルかもしれない。


「いつか…今日みたいに天気のいい日に滑ってみたいと思ったんだよ。」


ゲレンデに向けていた視線を私に向けると口の端を持ち上げて跡部は笑った。

それから続きとしてこう言った。


「好きな女とあんな風にゲレンデをな、」

『…え?』

「(そうなるにはほど遠いだろうが…)」


どこか哀れむような眼差しを向ける跡部。

私はこの目に弱い。


『やる、絶対今日中に滑れるようになる!』

「そうかよ。じゃあ、まずはそのへっぴり腰なんとかしろ。」


腰をバシッと容赦なく叩いた彼にセクハラ!と叫んだ私。


『だからか、』

「なにがだ?」

『好きな子が初心者だから私でコーチの練習してるんでしょ?』

「練習台にもならねぇくらい下手の中の下手な初心者だがな、」

『ひどいー!!』


まだ恋人になるなんて雰囲気はどこにも感じないけどあなたが一瞬見せた真剣さと気持ち、ちゃんと伝わりました。





ダイヤモンドに
恋をした

跡部の一言にドキッとしたのはきっとこのダイヤモンドみたいに光るゲレンデのせい





** END **
#2008.1.6

スキー歴16年にもなれば初心者時代を思い出すのは大変です。

一昨年、地元のスキー場で皆川純子さんの曲が流れていたのに驚きました*笑




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