欲しいのはただひとつ(パラレル)
闇に光る大きな宝石に目を輝かせる小さな怪盗が一人。
難攻不落と唱われた古代バビロンのような城壁の上から中の様子を見る彼女は明良と言う。
『ターゲットは跡部財閥のジュエリーブランドの新商品なり☆』
バタバタと慌ただしい敷地内を見ては楽しそうに笑う。
『あーあ、人数を増やせばいいって問題じゃないのに(笑)』
「そうそう、逆に忍びやすいのう。」
『ホントだよ。……って、うわあ!?』
「なん?」
『なんでいるんだよ、仁王雅治!!』
そして彼女、明良のライバルは仁王雅治と言う。
彼もプロの怪盗だ。
明良が狙うとこ狙うとこ、ついて歩くのだった。
『邪魔しないでよ!?あたしが先に目をつけたんだから!』
「俺なんか5年前から目を付けとったもん。」
『5年前って13歳じゃん!!』
「プリッ、」
『プリッ、じゃない!とにかく邪魔しないで!!』
「じゃあ、どっちが先に盗めるか競争じゃ。」
『ふっ、なら…先手必勝だ!!』
明良は塀から飛び降りて敷地内に入ると早々にセンサーに引っかかり、警報が鳴り響いた。
警備にあたる人間がそれを聞きつけ、塀の周りに集まり始めた。
「まったく、お転婆さんやのう。」
仁王は一人、明良の姿が暗がりに消えるのを見届けて身を伸ばした。
「さて、行きますか。」
よっこいせ、と言葉を漏らし、ワンテンポ遅れて仁王も動き始めた。
一方、明良は。
『ちょろいな♪跡部財閥もあたしに盗まれるようじゃ終わりだね☆』
すんなりと中に忍び込み、宝石を目の前にしていた。
「ちょろいのはテメェの方だろ、アーン?」
『!』
次の瞬間、部屋の出入り口すべてを封じられ、明良は周りを見渡した。
その様子を見て、高笑いする男は跡部景吾。
「こそ泥も俺様の手にかかればこんなもんよ。」
『チッ、』
明良は抵抗もせず、その場に座り込んだ。
「もったいねぇよな。可愛いのに犯罪者だなんてよ?」
『なっ!』
「今から俺に“尽くせば”見なかったことにしてやるぜ?」
顎をすくい上げられ、視線を絡めてくる跡部に嫌な顔をする明良。
「そういう顔もそそるな。」
跡部がグッと明良に顔を近づけた時だった。
――ドスッ
「ゲホッ、」
鈍い音が跡部の後ろですると、彼は床に崩れ落ちた。
「はぁ、俺がこなかったらどうなってたかのう?」
『仁王!?』
手のほこりを払うようにパンパンと音を立てる。
跡部はピクリとも動かないところを見ると、頭か背中を強打されたのだろう。
「ところでコイツとしたかったん?キス、」
『んなわけないでしょ!?』
「ならよかった。」
微笑んだ仁王を見て、不覚にも明良の頬が少し赤く染まった。
「さて、と。勝負は俺の勝ちみたいやのう?」
『なんで!?』
「ほれ、」
仁王の手中では明良が狙っていた宝石が光り輝いた。
横取りされ、不機嫌になる明良。
「助けてやったわけじゃし、感謝しんしゃいよ?」
『………助けてくださいなんて一言も言ってない。』
「あぁ、そう。したら俺は一人で帰るきに。」
天井から降りていたロープを握り、明良をおいて逃げようとする仁王を見て慌てて口を開く。
『わかったわかったから!ありがとうございます!!』
「わかっとうなら早よう言いんしゃいよ。可愛げない。」
仕方なく明良は仁王の手を借りてその場から脱出したのだった。
跡部邸から出た二人は担架で運ばれる跡部を塀の上から見て哀れみながら、今回の計画について振り返っていた。
「大体、ふつうは正面から突っ込んでいかんよ?」
『うっさい!それがあたしのやり方なの!』
「ふーん?」
『(ホントにムカつくなぁ!)』
仁王は手にした宝石をちらちらと明良に見せびらかせながら嫌みたらしくそう言う。
「今更やけど手組まん?」
『なんでさ?』
「明良がバカやっちょる間に俺は盗めるわけやし(笑)」
『バ、バカ!?』
「どうじゃ?」
『冗談じゃない!誰がアンタなんかと!!』
「ふーん?それは残念。」
『大体、盗品を山分け〜とかあたしが囮(おとり)〜とかヤダよ!それに自分で手に入れるからいいの!なのに今回は収穫ナシですんごい悔しいし。だから、次は負けないんだからねっ!』
「ふっ、次ねぇ……」
仁王はポケットから紙とペンを取りだし、何かを書きながら言った。
「次の勝負で明良に勝機はない。」
『なんでそんなこと言い切れるのよ?』
仁王は明良に一枚の紙を握らせて、口元をあげた。
「じゃあな、」
『え、待ってこれなにー!?』
その質問に仁王は答えず、姿を消した。
『なんだろ……?』
明良は中身を開けてみた。
そこには、
“今宵、あなたの心を盗みます”
“――仁王雅治”
明良がいつも書く予告状の文章があった。
欲しいのは
ただひとつ
ホントにアイツってバカ…?
** END **
#2007.7.12
(初パラレル)
NO.8888
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