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気付かれないように


『景吾、またテニスしてるの?』

「うるせぇな。また、とはなんだ。好きなんだよ。」


一瞬自分に言われた気がしてドキッとするものの、次の瞬間には熱くなった気持ちが冷める。


「頂点に立つのは気持ちいいもんだぜ?まぁ、明良にはわかんねぇだろうけどな。」

『なんで?』

「俺くらい完璧なヤツじゃねぇと頂点には立てねぇからな。」


あぁ、本当にこの男は!

そう呆れてしまう。

でも、ナルシストなところも含めてすべてを受け入れてしまう私はどうかしてる。

まぁ、幼なじみだから余計だけど。


「おい、明良。タオルだ。」

『私は樺地じゃないんだから!』

「いいから取れよ。」


雑用や使いっぱしりでもうれしい。

たった一言でも声をかけてくれるだけでうれしい。

恋をすると単純になる。

そして辛いことがあっても、恋をしているとその点が盲目となる。


「なにニヤケてんだよ、気色悪いヤツ。」

『気色悪い!?ナルシストのあなたに言われたくない!』

「おいおい、“あなた”なんて、夫婦じゃねんだから気安く呼ぶな。」

『ムカつくー!!そんなつもりで言ったんじゃないもん!』

「ああん?明良のくせに楯突きやがって、生意気な。」

『明良のくせに、ってなに!?』

「ただ、おまえは俺様の下で動いてりゃあ良いんだよ。」


悪気もなく口から出た言葉だっただろう。

いくら盲目になるとはいえ、さすがにこの瞬間、私の目は彼をしっかり捕らえていた。

そして、“幼なじみ”“ただの友達”という言葉が頭をよぎった。


「おい、明良?」

『……あ、』

「どうした?」

『ううん、なんでも…ない。』

「(こんな顔させたくせにどうした、なんて愚問だよな。)」


気づきたくない。

彼が好きだなんて気づきたくもない。

きっと私のこと“ただの幼なじみ”“ただの使い勝手の良い便利な女”程度にしか思っていない。

だから気づかないで。


『私、帰るよ。』

「お、おい。」

『練習の邪魔してごめん。頑張ってね―…』

「明良!?……チッ、めんどくせぇ女だぜ。」


思い返すと辛くて、その場にいられなくて逃げた。

自分でさえ気づきたくないのに、景吾に悟らるなんてバカなことになりたくなくて逃げ出した。


大体、幼なじみの私が景吾に恋愛感情を抱くこと事態、許されない。

それに、今まで築いてきた楽しかった日々の思い出を崩したくはない。


「はぁ、……にしてんだ、俺は。」


だから気づかないで―――


『なにしてるんだろ、私。』


もどかしい気持ち、いつになれば晴れる?


「好きな女にあんな顔させるなんてな……明良は俺の召使い、なんて位が低いもんじゃねーのに……はっ、めんどくせぇのは俺の方だよな。」


私の気持ちは行き場を失い、私の中でこだまする。

そして苦しみ続ける。


『露骨に逃げてきちゃった……どうしよう。これから会いにくいや。』


今、私に景吾を騙せるくらいの演技力か鈍感さがあればいいのに。

どうか気づかないで。

私、そしてあなた――





気付かれないように
本当は好きだとわかっているはずなのに





** END **
#2007.5.29
企画提出(LILY)



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