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夢を掴む者


『景ちゃんの夢ってなに?』


そう聞かれてから1年が経つ、今やっと答えが出た。

今更かも知れないが。

あれは1年前の春の話――


「お、見合い?」

『……うん、』


俺が明良から親が決めた相手とお見合いをしなければならない、ということを聞いたのは30分前。


「なんでだよ……明良は俺のこと好きじゃねぇのか!?」

『……景ちゃんならわかるでしょ?』


20歳になって迎えた春、5年間付き合った明良と別れなくてはいけなくなった。


「家の都合か?」

『私たち子供は……いつでも親の言いなりなの、』

「明良、でも『ねぇ?』


言いかけた言葉は明良に紡がれた。


『景ちゃんの夢ってなに?』

「……は?夢?」

『なんかないの〜?なりたいものとか、やりたいこととか〜』

「………そんなすぐ思いつくかよ。」


そうぶっきらぼうに言うと明良は寂しそうな表情を見せた。


『景ちゃんもそう。例え夢があっても叶えられないんだよ。』

「あん?」

『私が良い例じゃない、』


明良はなりたかったものがあるという。

しかし、家柄のせいで諦めなくてはいけない。

その気持ちはよくわかる。


「明良、俺『さよなら、』


唇に触れるだけのキスをすると走っていく。

呼び止めても振り返りもせずに彼女は俺の元から去っていった。


そんな別れから1年。

忍足と街中を歩いていたときだ。


「そういや知っとったか?」

「なにをだ?」

「明良ちゃん、兼子(かねこ)んトコの御曹司と今日○○の教会で結婚式やねんて?昨日電話来てな?」

「ッ、」

「あ、ちょお、跡部!!……行ってまいよった」


走った。

そして、願った。


「(間に合え!!)」


暖かい日差し、暖かく見守る人々、だが俺だけは違う。


「では、この結婚を神のみ前に誓い立てをいたしましょう。」

「その結婚待てー!!」


扉を開けるとそこには天使と見間違うくらい綺麗な姿の明良がいた。


「恥知らず、」

「跡部家のご子息がはしたない。」


散々避難を浴びた。

婿からも、親族や出席者からも、神父からも。

誰からの言葉も耳には入らない。

ただ、ただ―――


「明良、おまえの夢はなんだ?」

『……え?』


明良の答えがほしかった。


「聞いただろ?俺に夢はなにか……明良はなんなんだよ」

『……今更言えないよ、景ちゃん。』

「俺はあれから考えて答えが出た。」


ブーイングが巻き起こる中、俺は冷静になれず、半ば怒鳴るように周りに言った。


「黙って聞きやがれ!騒ぎ立てることなんか豚でも出来んだよ!!」

『……景ちゃん、なにしに来たの?式をこんなにぐちゃぐちゃにして、少なくとも祝福しに来たんじゃないみたいだね?』

「祝福?冗談じゃねぇよ、」


らしくもないが、俺なりに緊張していたんだろう。

深く息を吸い、ゆっくりと吐き、明良の腕を掴んで言い放った。


「来いよ。俺の夢は――おまえと……明良がいないと実現しない。おまえと幸せな家庭を築くってことが実現しない。」

『け、…ちゃん、』

「だから来いよ。俺は明良しか……愛せない。」

『……バカ、』


涙を流した明良の答えはわかりきっていた。

口から答えを聞かなくても。


「あんなヤツと結婚なんて許さねぇ。」


ウエディングドレス姿の明良を抱き上げ、会場を後にしようとした。

言うまでもなく、引き留められる。


「明良さんを返せ!」


婿が必死に追ってくる。

しかし、


「アイツ…足遅ぇな、」

『文系だから、彼。』

「フッ……オイ、兼子さんよ?」


嫌みたらしく告げた。

ヤツに負けるはずがなかったからだ。


「おまえなんかに明良はもったいねぇよ!少なからず見合いして1年で結婚なんて…5年も付き合ってきた俺たちのほうが上手く行くに決まってんだよ!!」


諦めたのか、5分もしないうちにヤツの姿はなくなった。

適当な場所に明良を降ろすと腹を抱えて笑いだした。


『プッ、あははッ、景ちゃん最高!』

「笑うなバカ、」

『結婚阻止してくれて助かった!あんな人の妻とか勘弁してほしいもん。』

「明良……」

『ん?』

「邪魔者がいない今、もう一度聞く。明良の夢はなんだ?」

『わ、たしの夢?』

「あぁ、」


明良が答えてくれるまで待った。

答えを聞きたいから。


『私の夢は――景ちゃんのお嫁さんになること。』


意外な夢に強ばっていた頬が緩んだ。

ガキくさいながらも愛らしいと思えたのだ。


「そんな夢、今すぐ叶えてやるよ。」


涙を流した明良を抱きしめた。

二度と離さないように。


「明良、俺と結婚しろ。」

『それプロポーズなわけ?ほぼ命令じゃない?』

「あん?だって、答えなんか初めから決まってたんだろ?」

『……うん、』


額をくっつけ合い、笑った。

その瞬間、最高に幸せだった。





夢を掴む者
俺は俺の手で夢を叶える





** END **
#2007.5.24



あきゅろす。
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