君に甘じる
俺はすべてにおいて完璧だと思ってた。
だからどんな女も俺の手にかかれば十中八九、落とせると考えてた。
だが、明良だけは違った。
なんで俺じゃないのだろう、そう何度考えたことか。
『跡部くん、これ榊監督から渡された書類。』
テニス部のマネージャーの明良はよく働き、常に笑ってみんなを励まし、真剣に仕事をする真面目なヤツでみんなからも慕われている。
でもそそっかしくて、
「明良、あぶねー!前をよく見ろ。」
『ごめんね、跡部くん。』
見張っていないと絶対転ける。
それも何もないところで。
「足腰弱ぇーんじゃねぇか?あーん?」
『そんなことないよ!』
頬を膨らまし、フグみたいな顔で俺を見上げる明良が可愛くて、抱きしめたくなる。
だが宍戸の彼女は俺に見向きもしない。
初めは見張らないと危ない、という過保護な考えで明良を見ていた。
しかし、見ているうちに俺はいつしか明良を男として目で追うようになっていた。
悲しいことに俺を“跡部くん”と呼ぶのはアウトオブ眼中の証拠。
『今日はスマッシュ練習のスコアみんな伸びてるよ?』
みんなのスコアが伸びてることを嬉しそうに笑う明良が可愛くて、頭を撫で回した。
そのときに首筋にあるキスマークの存在に気づいた。
すぐに宍戸がつけたものと理解した。
「ここ赤くなってるぜ?」
『え?あ…!』
少しからかいがてらに言ったことなのに真面目に照れた明良を見て後悔した。
『あ、亮……』
「悪い、呼び出しくらってて遅れた。」
部活に遅刻してきた宍戸が息を切らせて俺の元に来た。
「あぁ、アップしてこい。」
宍戸が軽く走り始めたときに明良が追いかけていった。
『バレちゃった、』
「キスマーク?」
『それも跡部くん。』
「そ、そっか。」
遠くてどういう会話をしてるかはわからなかった。
けど宍戸に対する明良の顔は俺じゃ作り出せないのが悔しい。
「はぁー…うまくいかねーもんだな?」
そう空を見上げ呟いた。
『聞いて跡部くん。亮ってば、小テストで点数悪かったかやりなおしさせられたんだって?』
帰ってきた明良は宍戸のことで笑っていても俺は笑えなかった。
「なぁ、明良。俺のことどう思ってる?」
目をまん丸くして明良が俺を見つめてる。
『急にどうしたの?』
「いや、なんでもねー」
傍にいると抱きしめたくなる衝動に駆られるから、明良の隣から立ち上がった。
『……跡部くんは―――お兄ちゃんみたいな感じ?』
「(予想通りだな、)」
『何でもできて、かっこよくて、……マネ始めた時は近づけなかった。』
「は?」
『なんかガード堅いと言うか、近寄りがたいと言うか……でも初めて声かけてくれたときは嬉かったの!』
振り返れば目を細め、俺を見上げて笑う明良がいた。
“オイ、明良だったよな?”
“あ、はい”
“気合いを入れて仕事するのはかまわねーが無茶するなよ?”
“え?”
“大事なマネージャーが倒れたらみんな心配するだろーが”
“………うん、ありがとう跡部くん!”
あの時から明良にとって俺は優しい兄的存在ならしい。
『すごく憧れでもあったから、今こうしてふつうに話しかけられるのが嬉しいよ?』
参ったな、やられたぜ。
俺はいつまで経っても明良を越えられそうにない。
俺の気持ちを知りもしないから彼女はそう言えるんだろうが残酷な話だ。
だからといって宍戸から奪う気はない。
いつまでもその笑顔を見ていたいと俺は思っていたから。
「俺から離れんなよ?宍戸以外の変なヤツは全部追い払ってやるよ。」
『ありがとう…!』
このままでいい。
宍戸の次に明良に近い男は俺なんだ――自分にそう言い聞かす。
だから俺は明良の笑顔が絶えないように守りたい。
『跡部くん、いつもありがとう。』
と、いうのは綺麗事で、実際は明良のそばにいられるなら手段は選ばない。
君に甘んじる
余裕をかましてるが、実際は常に本気なんだよな
** END **
#2006.9.16
(2007.5.18)
NO.79000HIT
燈茄さま
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