[携帯モード] [URL送信]
精一杯してやりたい


朝、明良の家に迎えに行ったら、アイツは血の気が失せているのか真っ白な顔で玄関に立っていた。


『おはよう、』


いつもより力もなく発せられた言葉を聞いて不安になった。


「大丈夫かよ?」

『平気だよ?』


ヘラッと笑う明良。

とても、全然、平気そうには見えない。

俺の差し出した手をいつもどおり明良は握ったがその体温の低さは異常だった。


「……体温低すぎだ!」

『そうかな?』


前回、明良の生理痛は傍にいてやるしかできなかった。

なにかできるわけがなく、今回もそれは同じだ。


「寝てた方がいいんじゃねーか?」

『大丈夫だよ。』


なにが大丈夫だよ、だ!

そう心中で突っ込みを入れる。

しかし、本人が学校に行くと言う以上、俺はどうもできない。

仕方なく明良と登校した。





クラスが一緒なのが不幸中の幸いか。

なにかあったら助けてやれるし、見張ってられるのは安心要素だ。


「オイ、明良?」

『な、に?』


声をかけるとうつろな目で俺を見上げた。

いつもの生き生きした眼差しはどこへ行ったのか。


「次、移動だ。」

『……かった』


教室の半数は移動していて静かだったせいか、明良の声がますます弱々しく思えた。


「無理してねーで寝てろ、」

『大丈夫だって。』


俺は教室から先に出て、明良の少し前を歩いていた。


「(無理矢理でも保健室連れてかねーと。)」


そう思ったがその必要はなかった。


『ッ、』

「なぁ、明良?保健室に――」


―カッシャーン!

明良の持っていたペンケースが手から滑り落ちたらしい。


「明良!?」


振り返れば、明良はしゃがみ込んでおなかを押さえている。

周りには落とした教科書やペンが散乱していた。

とりあえずペンを拾っていたが明良がついに倒れた。


「明良!」


明良は倒れ込んで額に汗を浮かべて、顔は初めに見た時より青白かった。


「仕方ねーな…」


周りを見渡せばタイミングが良い事に岳人がいた。

使える。


「なんだよ?明良、大丈夫か?」

「岳人、おまえのジャージ今すぐもってこい!!」

「え?あ…わかった、」


岳人は真っ青な顔の明良を見て、状況を理解したのか慌てて走っていった。


「明良、もう少し待ってろよ?」

「ほら、跡部。ジャージ!」

「あぁ、」


岳人が持ってきたジャージを明良にはかせた。

スカートの下になにかはいていたとしても抱えるのだからマズいだろう、と思ったのだ。


「岳人、悪いが教科書とか持って来い。」

「わかった。」


珍しく素直に岳人は同行してくれたおかげで手間が省けた。

だが、目障りなことに俺の行く先々を跳ね歩いていた。


『ん……け、ご?』

「あん?大丈夫か?」


少し落ち着いたのか、明良は俺を見ていた。

自分の視界から状況を判断しようとしているらしく、考えるように瞬きを何度かしていた。


『え!?何で……いや、ちょっ、スカート……あ、』


自分の状況を少し把握して一瞬騒いだ。


「俺はそんなにデリカシーにかけてねーよ。」


俺の言葉を聞いて明良は少し笑った。

スカートのまま抱えるなんていくらなんでもしねぇし。


『ジャージはかせてくれたんだ?ありがとう。』


少し照れくさそうに笑う明良を見て嬉しくなる。

感謝されるのは気分が良い。


「今日は保健室で寝てろよ?こないだより痛そうだしな、」

『うん、』


何かできるわけじゃない。

でも、明良は俺がいるだけで安心してくれるのかもしれない。


『景吾がいてくれてよかった。』


その小さな声を俺は聞き逃さなかった。





精一杯してやりたい
おまえにはなにかしてやりたかった





** END **
#2006.9.18
(2007.5.10)

Tの続編に


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!