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告白日和


今日、たまたま私は見た。

部活後、家庭科部の子が頬を染め、景吾に手渡していたのは部活で作ったと思われるマフィン。

“受け取ってください”と言われ、素直に手を出した彼。


『今日見た〜…景吾がマフィン貰うとこ』

「あ?あぁ、別に欲しくはねぇがくれるって言うからな?」

『うわ、めっちゃ失礼!』


その彼女が“試しに作った”と言っていたと景吾は言うがきっと景吾に近づく口実だろう。

そういう下心にもいちいち彼は気に留めもしない。

それが私としては辛いんだけどね。


「あん?もしかして明良、腹減ってんのか?食うか?」

『アンタに持ってきたんだから自分が食べないと感想聞かれたときになんて言うわけ!?』

「別に?明良にあげたって言うから気にするな。」

『気にするな!?かなり気にします!!そんなこと言ったら私が悪いことになるじゃん!』

「別に俺様が食べなくても良いだろ?試しに作ったって言ってたし?」


わざとか本気かが見抜けないのがかなり悔しい。


『……バカ、』

「バカとか言うな。」


跡部は普段女の子と関わることが多いのに乙女心を理解しようとしないのはなぜなのだろう。


『(インサイトはどうしたんだよ、)』

「あん?眉間にシワ寄ってるぜ?」

『うっさい!』


誰のせいだよ!と突っ込みたいのを我慢する。

悔しいくらいに彼はモテるから……そばでそれを見ているだけの私には辛いものがある。


『私なら怒るなぁ?』

「なにがだ?」


帰り道が同じ方向っていうだけでクラスは違うのに一緒に登下校する私たちはただの幼なじみ。

普段は車のくせに最近は歩いてくる。

私にしたらラッキーだけど…だけど、私は景吾をいつも幼なじみとして見てるしか出来ない。

もし告白してふられたらこの登下校の時間もなくなるんだ、と臆病になる。


『だって好きな人に精一杯の愛を込めて作ったものを横流しなんて、』

「気持ちがわかるってか?明良、おまえに好きなヤツいたのか?」

『え?』


なぜ勝手に解釈すんだ!!と、焦った。

でも、落ち着い傷ついた。


『景吾のバカ!!』

「あん?」

『景吾なんかもう嫌いだもん!!』


走り出しかけたけどとっさに伸びた手に阻止された。


―ドスン


首に巻いてたマフラーを握られ、首が締まった。

引き留められた反動で尻餅をついた。


『ぐ、るじぃ……ふはあ!……にすんのよ!?』

「あん?悪い、」


この態度はあきらか悪いと思ってやしない。


『天下の跡部様がここまで恋愛に鈍感とはね……好きな人がいないのは景吾のほうなんじゃない?』

「あのなぁ……俺はおまえが――」

『……え?』


初めて感じる告白現場の緊張からか、揺れる瞳と景吾の熱い視線が宙で絡み合う。
『ああ!!』


恥ずかしさから私が急に声をあげると景吾が目を見開いて私を見る。


『雪だぁ!!』

「はぁ!?」


景吾からの告白を半ば中断させてしまったことに私は後悔するだろう。

でも、今年の初雪を見て私ははしゃいでいた。


「フッ、人がせっかく告白してるっていうのに。……まぁ、話はゆっくり聞いてもらうぜ?」

『え…?』

「雪も降って路面状況は良くねぇし、家までまだ距離もあるしな?」


子供のように無邪気に笑う景吾を見て私は思った。

“その顔、絶対反則だから”――と。


「……あのマフィンは樺地にやるか。」

『え?なんで!?』


そう尋ねた私を見て、景吾はキョトンとしていた。


「あん?言うまでもねぇだろ。明良がヤキモチ妬くからだよ。」

『はぁ!?』

「だってさっき“景吾なんかもう嫌い”って言っただろ?」

『そ、それがなに?』

「それって“今までは好きだった”んだろ?」

『!』


なんで誰のことも理解しようとしない景吾が私のことを理解してくれるんだろう?


『ムカつく!あんなに悩んだのに、』

「明良のことならなんでもわかんだよ。」


得意げに笑われてしまった。

思い続け、見続け、一緒にいたのに……わかってなかったのは私だったみたい。


「さぁて、これからゆっくり……明良の気持ち聞くかな?」

『え?ちょ、私は景吾の話を最後まで聞いてないよ!』

「道は長いしな、」

『話を聞けぇ!って。ちょっと待ってよ!!』


少し歩きだした景吾に慌てて歩調を合わせる。

隣に並ぶと景吾がゆっくり手を伸ばしてきた。


「インサイト……ここにあり、」

『ま、まさか全部インサイト!?』


そして冷たくなりかけた手をしっかり握ると景吾がふと不適に笑う。


「ふん、明良にヤキモチ妬かせたかったんだよ。」

『だからわざと!?』

「そう、##name1##の気持ちを引き出すためにな……インサイトは明良とテニスにしか使わないんだ。」


敵わないと思った。

彼、跡部景吾には―…


でも少し感謝した。

雪のおかげで景吾といつもと違う時間をいつもより長く一緒に歩けて嬉しかった。


―――なんて悔しいから言ってやらないの。





告白日和
景吾にしてやられたな





** END **
#2006.12.16



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