スーパー彼氏の大遅刻
“風邪をひいた”
そう報告を受けたのは数時間前。
授業中に机の中でメールを受信し、チカチカ青く光るライトに気づいた。
机ん中でバレんように開いて受信したメールを見る。
相手は明良。
俺ん愛らしき彼女じゃ。
……バカは風邪をひかない、とよく言うがあれは嘘だと思う。
じゃって、俺ん彼女(バカやのうて天然じみたアホに近い)が夏風邪をひいたんやから。
「(風邪、ねー…)」
もろにクーラーの冷たい空気を被って寝てれば風邪をひいても仕方ないだろう。
後は冷たいもんの食いすぎやと思うん。
「暑いからって体冷やしすぎなんよ。」
呟き、そう返信したときだった。
「ほー?」
「……げっ!」
「俺の授業中に携帯をいじるなんて良い度胸だな、仁王?」
運悪くも教師に見つかってしまったのだ。
とっさに隠した携帯は虚しいことにあっさりと没収されてしまった。
「没収だ!今日一日我慢しろ。」
「や、それは困るん!」
教師が没収した携帯を上着の内ポケットに入れてしまったため、奪い返そうとしても無理だった。
明良からのメールの返信が気になるまま、携帯は誘拐されてしまった。
明良とはクラスが違うため、一日中メールのやりとりを繰り返している。
授業中でも構わず、というくらいだ。
速攻返信してくる率は100%と明良が言うくらい俺は返信が早い。
その俺がこんな目に遭うことで(授業中に使う方が悪いが)明良に可哀想なことをしてしまうことになったのだ。
部活後、俺は職員室にてようやく携帯を返してもらえた。
「いいか、仁王?授業中だけは携帯を触るな。評価に関わるんだぞ?」
「はーい、」
適当に返事し、携帯をすぐに触る。
話を聞いていたのか!?
そう横でガミガミ言う教師の言葉など左から聞いて右に抜けていた。
“一人でつまんない”
“咳が止まらない”
“珍しく返事遅いね?”
“まさかシカト!?”
“おーい、雅治〜?”
など、くだらないメールも合わせて全部で10件来ていた。
最後の一つを見たとき、俺はメールの受信時刻を見直した。
“一人で寂しい、会いたい”
愛しい彼女がそう言ってきたメールは10時59分に受信されたもの。
それから7時間以上経過している。
俺は慌てて走った。
「おいコラ仁王!……たく、仕方ないな。」
説教中だということも忘れ、部活で着ていた汗まみれのジャージからシャワーを浴びて制服に着替えるのも忘れ、俺は鞄だけを持って走った。
「おう、仁王。お疲れぃ☆」
「あぁ、じゃあな!」
「…感じ悪ぃ〜の。ほぼスルーかよ!」
すれ違った丸井に気を配る余裕などない。
とにかく走った。
明良の家まで来ると呼吸はいつも以上に速まっていた。
呼吸を整える暇もなく、俺は家のベルを鳴らした。
しかし、いつもドアを開けてくれる明良の母親が出て来る気配がまるでない。
俺は仕方なくドアに手を伸ばした。
鍵がかかっていたらどうしよう?なんていういらん心配をする俺。
「開いちょるん?不用心な…」
ラッキーなことに玄関のドアは開いていた。
ま、おばさんは恐らくご近所さんとこに出かけてるんじゃろう。
それにしても勝手に家に上がるなんて行為、空き巣にでもなった気がしてならなかった。
せめて気持ちだけでもと思い、お邪魔します、と呟いてから家に上がった。
「明良…?」
行き慣れた明良の部屋のドアを開けると見慣れた風景が目の前に広がった。
違和感があるのは顔を赤くした(恐らく熱がある)明良がベッドに寝ている光景だけ。
「?、……プッ、なんなんこれ?」
布団を深く被る明良を見れば、携帯を片手に握りしめている。
もう片方は俺が前にプレゼントしたぬいぐるみを抱えている。
「なんとも言えん眺めやのう。」
苦しそうにしている明良を横目に、俺は携帯を取り出してその様子を写真に収めた。
「明良が見たら怒るじゃろうな。ま、いいか。」
明良にその写真を見せると怒る姿が目に見える。
しかし、そんな仕草であろうが見たいと感じる俺はかなり重症だ。
「来るん遅くてごめんな?」
汗で額に引っ付く前髪をかきあげてやる。
うーん、と唸りながら眉間にシワを寄せる明良もまた可愛い。
「ま、明良には悪いがこんな姿を見れたんやから俺は満足なん。」
普段強がる彼女の甘えた一面は貴重なもので、写真に収めたそれは隠しフォルダ行き決定だった。
「目、覚めたら怒られそうじゃな…」
来るのが遅い――と。
そして頬を膨らませながら言うん。
私のスーパーマンは絶対に3分以内に飛んでくるの!――と信頼されていると思える言葉を。
スーパー
彼氏の大遅刻
今日だけは携帯没収されたことに感謝するぜよ、先生?
** END **
#2007.6.12
NO.2500
亜咲へ
現在時刻AM1:45なり*笑
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