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図書館にはないラブストーリーを


大学の授業の合間、図書館で時間を潰すのが常で俺は医学書を手に持ちつつも、息抜きに恋愛小説に手を伸ばした。

本で見るような恋愛には憧れたりしたけど、実際にそんな恋愛をした経験はない。

どちらかというと昼間に奥様方が喜ぶような内容の恋愛が多かった。


「……あの子や。」


顔を上げればいつも目に留まる彼女。

声をかけたことはないけどいつも楽しそうに本を読む姿を遠くから眺めていた。

制服を見れば彼女が女子校であるのは一目瞭然で文学少女、まさしく理想の女の子と言えよう。


「(アカン、また見入っとった。)」


自分の目的を忘れ、通路に突っ立っていたことに情けなさを感じ、適当に空いている椅子に座った。


本の世界に入り込んでから約1時間、時計を見て重たい腰を持ち上げた。

そして癖のように彼女を捜すべく、辺りを見渡した。


「あらま、寝とるし……お姫さん、風邪ひくで?」


近づき、声をかけるが熟睡しているようだった。

白い肌に真紅の唇を持つ彼女はまるで眠り姫――なんて恥ずかしいこと考えてた自分の内にある邪念をすぐに振り払った。

自分の羽織っていたジャケットを静かに彼女に被せるとノートを一枚破り、殴り書きしたような汚い字で一言手紙を残し、慌てて図書館を出た。


『――寝ちゃってた。………誰の上着?……手紙?』

「今度会うた時に返してや?冷房ガンガン効いとるとこで寝てたら風邪ひいてまうから気ぃつけや?字が汚くて堪忍な?」

『…ふふ、優しい人。』


大学の授業さえなければ彼女の後の反応を見ていたのに。

その頃、ため息を吐きながら俺は大学へ向かっていた。


――それから数日後。


外の蒸し暑さにうなだれながら俺はいつものように図書館へ来た。

名も知らない彼女がいるか、またも探している自分にふと気づいた。


「(恋する乙女みたいやん、俺…)」


自分自身の異変に気づき、ため息を一つ吐く。

さらに彼女の姿がなくて肩を落とし、もう一つため息を吐いて振り向いた時だった。

後ろから人が歩いてきてたことに気づかず、ぶつかってしまった。


『きゃあ!』


とっさに相手の腕を掴んだため(て、自分が悪いんやから助けて当たり前なんやけど)転けずにすんだ。


「悪いな、堪忍やわ。」

『いえ、平気で……か、関西弁?』

「ん?あ――この間の、」


鮮明に残っている記憶はつい先日の話じる。

しかし、時の流れは速いもので実際、あれから1年も経過している。


「今日は授業もうないん?」

『今日は終わった。でもノートまとめなくちゃ行けないから図書館行きたい。』


今、俺の隣には運命的な出会いを果たし、恋に落ちた相手――明良がいる。


「……なぁ、明良?」

『なに?』

「まだこの汚い字の手紙持ってるん?」

『あ、ダメだよ?これはすごく大切なものなんだから。』


俺たちの始まりはクリアファイルに入れられ、大切に保管されていた。


「ホンマに明良は可愛いんやから。」

『だって、嬉しかったんだもん。侑士の優しさ。』


恋愛小説での出会いは大抵は偶然だが。





図書館にはない
ラブストーリーを

俺たちの出会いは必然だったと思う





** END **
#2007.8.11

NO.16000
寿々さまへ


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