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あなたは私の薬


昨日の夜、生理が来た。

お腹が徐々に痛んだから生理痛がひどくなることは予測できたけどこれほどまでに痛いとは予想外。

あまりの痛さにスズメのさえずりという、さわやかな目覚ましが鳴る前に目が覚めたのだ。

現在時刻さえわからず、携帯に手を伸ばした。


やっとの思いで携帯を開き、雅治に電話する。

数回プルルルと電子音が鳴ると留守番サービスに繋がってしまう。


『死にそうなのにぃ…』


まだ寝ているであろうにしつこくかけまくる私。

大げさかもしれないけど最後に雅治に会いたい、なんて願ってしまうほど真面目に痛かった。


「…………んー?」


だるそうな声をあげながら電話に応対するのは間違いなく愛しの雅治。

半泣き状態で情けない声をあげるが向こうは寝起き。


『……痛い、』

「………なん?」

『だから痛いの!』

「……なん?」

『痛いのぉ!』

「…なん?」

『だから痛いっつってんのぉ!!』


寝ぼけているのは仕方ないとはいえ、いい加減に腹が立ち、電話に向かって怒鳴った。

恐らく耳に響いただろう。


「そんなに怒鳴らんでも聞こえとうよ?」

『バカッ、バカ、…バカ、……バ、』


痛さのあまり携帯を握る手が汗ばんで携帯を床に落とした。

ゴンッと鈍い音がすると携帯の向こうで雅治がしきりに呼びかけるが返答がないので仕方なく電話を切ったようだ。

すぐに終話を知らせる音が遠くの方で聞こえた。


一人暮らしの私は生理痛が酷いときほど心細いものはない。


しばらくするとカンカンカンと鉄の階段を上る足音が聞こえ、部屋の鍵をガチャガチャと荒々しく開ける音がした。

詐欺師と言うものの、彼氏の雅治は信用して部屋の鍵を渡してあるのだ。

慌てて来てくれたんだと思うとジーンとしたが―…


「あー寒かったぁ、」


ただ寒かっただけだと知ると感情が冷めた気がした。


『死ぬ前に雅治の顔が見たい!』

「まったく大げさやのう、」

『痛くて死にそうなの。』

「ふーん?生理痛で女子高生死亡って見出しの記事はどうじゃ?」

『格好悪い…』

「はは、待っときんしゃい。今、薬持って来ちゃるきに。」


雅治がそばにいる。

それだけで不安要素がなくなるわけだから、痛みも和らいだ気がした。


『今、何時?』

「5時、」

『……ごめん、』


早起きが苦手な雅治を叩き起こしたのは悪いとは思う。

でも、その雅治が来てくれたのは嬉しかった。


「早よう飲みんしゃい、」

『……薬嫌い、臭いし苦いし不味いし、』

「そんなん知るかよ。」


だから、この後に及んで…って感じだけど、さらにわがまま言わせて?


『口移し希望!』

「おまえさんアホじゃろ?」


そう言いながら薬の袋を開け、口に薬を入れる雅治。

きっと次の瞬間。

薬の苦さが口に広がるけど……薬を飲み干した後は雅治の甘いキスが待っている。


「俺を早起きさせたお駄賃は高いぜよ?」

『はい、』


だけど雅治?

生理が終わるまでお預けだからね?





あなたは私の薬
雅治にあげたお駄賃が何かは内緒





** END **

執筆/2006.12.4


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