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  時を止めて


「なんで黙ってんだよ?」

『だって……』


好きだけど、言ってはいけないことなんか俺もよく理解している。

なぜなら、俺たちは姉弟だから。

しかし、自分の気持ちに嘘をつくほど俺たちは強くない。


「人が告白してんのに…」

『あたし、景吾の姉なの。わかってる?』

「そんなの重々承知だ。」


いつもならその告白に「はい」で答えてくれるのに今はそんな状況ではないのだ。


「愛してる…」


明良の腰を引き寄せ、顎に手をかけた。

それもいつもと何ら変わらない行為だった。


『……私は弟にしか見てないもん。』

「あぁ?嘘つけよ。さっき熱い眼差しを向けてたのは誰だよ?」

『さぁね?』


無駄だと分かっているはずなのに俺の体を細腕で押して抵抗する明良。


「お前だろうが!」


それに少し腹が立ち、ほっぺをギュッと抓れば、慌てて手を振り払おうとする。

そんな姿も愛しく思う。


『痛い、』

「で?俺のこと好きじゃないのか?」

『……そんなわけないじゃない。』


しみじみ、改めて実感したようにいう小さな声。

俺をチラッと見たら頬を赤くする明良をギュッと抱きしめた。


「なぁ、明良?」

『……なに?』

「“今”――幸せか?」

『うん、すごい幸せ。』


そう言い、抱き返してきた彼女。

胸が熱く焦がれる。


「ずっとこのままだったらいいのにな?」


そう呟くようにいうと明良は涙を浮かべながら微笑んだ。


『ずっと、景吾は大切な人だからね?』

「……どんなことがあってもその言葉、絶対に忘れんなよ?」

『うん、』


手を放せば終わってしまう。

誰にも邪魔されず、ずっと続いてきた幸せ過ぎた時が。


「ほかの男のものになるなんて考えたくねぇ…」

『仕方ないじゃない。』

「明良のナカに汚いもんが挿れられると考えただけで虫酸が走る。」

『エッチ!』

「いつでも消毒してやるから…俺のところに来いよ?」

『……うん。』


髪を優しく撫でると気持ち良いのか目を閉じる明良。

その姿を見て自然と笑みが漏れる俺。

幸せを感じているとき、まるで邪魔するようにタイミング悪く母親が明良の名を呼ぶ。


「……時間だ。」

『じゃ……またね、景吾。』


“またね”と言った言葉は俺の胸に突き刺さった。

“さようなら”と言われた気がした。


「(どうすれば幸せになれる?)」


この際、明良の時と俺の時を止めてしまえばいいのか?


「今、明良を殺して自分も死ねば、こんな思いしなくていいのか…?」


力が抜け、床に座り込んだ。

涙が赤いカーペットに音も立てず、染みていった。





時を止めて
禁断の木の実を食べた男女は破滅に至った





** END **

#2007.7.26


あきゅろす。
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