愛があるから
私は目の前でのやりとりに唖然とした。
侑士に差しだそうとした手を私は引っ込めるしかなかった。
それは私たち二人の間に割り込んできた同じクラスの女子、彼女が家庭科の授業で作ったマフィンを侑士に渡したからだ。
『……侑士なんか、侑士なんか知らない!』
「ちょ、明良!?」
侑士にあげると約束していたから頑張って作ったのに、と思う度に悲しくなった。
侑士は優しいから彼女のマフィンを受け取った。
いや、受け取るしか選択肢はなかったんだと思う。
恋人の私が作ったマフィンより、先の彼女が作ったマフィンのほうがおいしそうだもんね。
そう内心、悪態を吐いた。
「明良!」
腕を捕まれ、足を止めた。
優しい侑士は好きだけど、私以外に優しい侑士は嫌い。
そう思い始めると自分の中でドロドロしたものが湧いてきた。
ついに、持っていたマフィンを侑士に投げつけた。
『侑士は誰からでもマフィンをもらえるんだから、私のじゃなくてもいいじゃない!!』
俯いて涙をグッと堪えてると不意に侑士のにおいがした。
安心するような、甘いにおい。
「ヤキモチ妬いてくれたん?」
『ッ、』
「辛い思いさして悪かったわ。これは返してくる。やから、明良が作ったやつ、くれへん?」
『材料は同じだから、味なんてあの子のと変わらないもん。それに…』
投げつけたせいで形が崩れてるもん。
なんて言った自分はなんて可愛くないんだろう、と思った。
けど、侑士を見れば不思議なことに笑っていた。
愛があるから
俺が求めるもんは明良からしかもらわれへんねやで?
** END **
2007.10.30
相互記念
響へ贈ります
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