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歩幅を小さくしている理由


正式に付き合い始めてから景吾とは登下校を共にしてきた。

今までは車での登下校だったが最近は違う。


『最近、車じゃないんだね?』


そう隣の彼に聞くがその表情はピクリとも動かず、冷静さを保ってる。

一瞬、私に視線を向けるとすぐに彼は前を向いてしまった。


「車に飽きた。たまには歩きてぇんだよ。」


すごい贅沢な話だ。

しかし、そう言ったくせに歩き方が面倒くさそうに見える。


『最近、歩いて一緒に帰ってくれるよね?なんで?学校から家まで近いから?』

「……わかってんなら聞くな。」


昔から一緒だったから、景吾のそういう少し冷たいところには慣れていたつもりだけど時たま寂しくなる。

一緒にいたいと思うのは私だけなのかな?

だったら拗ねた振りをして彼を試す。


『私のほしい答えはそれじゃない!』

「じゃあ、ほしい答えってなんだ。」

『……わからないなんて景吾はバカ!』

「たく、俺をバカ呼ばわりすんのは明良だけだぜ?」


景吾は機嫌を取り戻すように促しながら手をとった。

そんなことがたまらなく嬉しかったけど答えをくれるまでは諦めない。


「つうか、もう少し早く歩け。」

『私は景吾ほど歩幅広くないもん。』

「足が長いって言え、」


先の感情は一変。

なんとなく腹が立ち、その場で動くまいと足を止めた。


『一緒にいれて私は嬉しいのに……景吾はそうじゃないんでしょ?』

「誰がそんなこと言ったよ。」

『あーあ!可愛くない!一緒にいたいって素直に言えないの?』

「言えるぜ?一緒にいたい。」

『うわー棒読み。』


そう言うとククッとのどを鳴らし、楽しそうに彼は笑った。

幼なじみという過去の流れがあるせいか景吾は私に素直になれないという傾向がある。

でも、それは言い訳。

そんなの恋人になった私には通用しない。


『最近、歩いて一緒に帰ってくれるのはなんで?』


負けずに再度尋ねた。

すると彼は私の手を引き、一歩自分に近づかせてからこう言う。


「明良が好きだから少しでも一緒にいたいんだ。」


ほしかった答えを耳にし、私は幸せで満ちた笑みを浮かべているだろう。


「本心だからな?」


そう言われ、聞き足りないなんてわがままを言ってみた。


『耳にタコが出来るくらい聞きたい!』

「……」


恋心なんて知らないあの頃はになりたくて、二人で張り合いながら前だけを見て走ってきた。

でも今は今という時間を大切に過ごしたいから、時間がゆっくり流れてほしいから、二人でゆっくり、ゆっくりと歩いてる。


『もっと聞きたいー』

「あと何回聞けば気が済むんだよ?」

『とりあえず今日は100メートル先の分かれ道までに100回?』

「…バーカ、可愛いこと言ってんな。」


ねぇ、知ってる?





歩幅を
小さくしてる理由

(もっともっと一緒にいたいから――)





** END **

執筆/2007.8.9
企画提出(プラマイ5)閉鎖


あきゅろす。
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