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たまには二人で


暑い――いや、熱い夏だった。

全国大会が明良の彼氏である跡部景吾の中等部時代、最後の試合となった。

その試合で敗退したことにより、彼のテニス生命は終止符を打ったかのように思えた。

しかし、彼に指導を仰ぐテニス部員が多いことから引退という雰囲気はどこにもなかった。

引退してのんびり自主練習どころか、むしろ以前にもまして彼は多忙となった。

そう、彼氏が忙しくなれば必然的に彼女である明良も忙しくなった。

これは久しぶりの休日、跡部の自宅にてのんびりと過ごせた一日の話である。


「久しぶりに明良とゆっくり出来るぜ。たく、俺様をいい加減引退させろ。」

『それだけ景吾を頼ってるんだよ。』


明良の柔らかい笑みにつられ、跡部も気持ちが穏やかになった。


『ところで、その本おもしろい?』

「まぁまぁな、」

『景吾がおもしろいって素直に認めるわけがないか。』

「……」


すべてお見通しと言わんばかりに明良は言う。

それに対してなにも言えない跡部。

いつも彼女には勝てる気がしなかった。


「そういや、明良。おまえマフラー欲しいって言ってなかったか?」

『今度で良いの、』


跡部は彼女の必要なものを満たす時間さえなかったことに気づく。

今から出かけるのも悪くないと思ったが明良はそうではなかった。

久しぶりの休みだからこそ、二人きりで過ごしたかったのだ。

彼女の返答からそう悟った跡部は渋々と再び読んでいた文字に目を移した。

それから数十分後。


「明良、のど乾かねぇか?」


そう彼女を気遣って言った言葉に返ってくるものはなかった。

不審に思った跡部は彼女に目を向けた。

するとどうだろう。

彼女は読んでいた本を抱き抱えて眠りについていた。


「寝ちまったのかよ。たく、仕方ねぇヤツ。」


眠る彼女の髪を一撫でし、瞼にキスを落とした。

それからベッドに運ぼうと明良を抱き上げたときだ。


『け、ご…大好き―…』


どんな夢を見ているのか気になるところだが、それは眠りから覚めたときに聞くとして今は彼女の愛らしい寝顔を堪能しようと跡部は笑う。

しかし、


「明良が好いて良いのは今ここにいる俺だけだっての、」


彼が夢の中の人物(恐らく跡部)にヤキモチを妬いているのは間違いない。


「それに、もっと甘えていいんだぜ?」


そう言った跡部に反応して明良が動いた。

腕が首もとへ延び、彼女は跡部に抱きついた。


『じゃあ、お言葉に甘えて〜』

「……いつから起きてた?」

『明良が好いて良いのはーくらいから。』

「狸寝入りしてやがったな?」

『違う違う!起きるタイミングが掴めなくて!』

「可愛い言い訳してんなバーカ。」


跡部は力一杯に明良を抱きしめた。

それに苦しいと良いながらも嬉しそうにする彼女がいた。


これはそんな二人が愛を深めたある日の貴重な休日の話。





たまには二人で
だって、いつも周りに人がいてイチャイチャ出来ないんだもん!





** END **
#2007.12.

NO.226622
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