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キズが痛まないとか


跡部景吾はモテる故に女を取っ替え引っ替えする、なんて印象を持ってやしないか?

ファンクラブまであるのだからモテる(視線を感じる)のは認める。

しかし、実のところはファンクラブから守られいるために純粋だったりする。


“今までありがとう”


幸せは永続するものだと思ってた。

目の前から明良がいなくなるまでは。


「なぁ、跡部はさ?これからずっと彼女なしで貫き通すつもり?」

「…わからねぇ。でも、ほかの女に興味はない。」


質問してきたジローに俺は冷たく返事をすることしか出来なかった。

失恋した俺を心配してくれるジローはいつも隣にいてくれた。


「1人だと悶々と考えて辛くなるC!」


それはジローなりの気遣いだった。

いつも俺の先を歩いて明良と鉢合わせにならないように誘導してくれる。

知ってんだぜ?


「うわ、やっべ!」

「あん?」

「跡部、あっちの道行こーぜ?」

「ちょっと待て、引っ張んな!」


ジローが何かに気づき、俺の腕を引くが遅すぎた。


『……景吾、』

「なんや、ジローに跡部。なにしてんねや?」


俺を庇うようにジローが前に出てくれたが俺は明良をしっかりとこの目でとらえていた。


“景吾だって本気じゃなかったでしょ?”


そう別れ際に言われたことを思い出した。

明良はただ、忍足の注意を引きたくて俺と付き合っていたにすぎない。

それなのに俺は本気にしていた。


「……幸せそうだな?」

『うん、おかげさまで。』

「跡部…」

「ここでいいジロー。」

「ちょ、待って!」


俺はジローをその場に残し、先を急いだ。

好きな女が幸せそうなのは嬉しいが、自分は辛い。


「クソォ…!」


誰もいない生徒会室まで来て崩れるように床に座った。

どうすればこの気持ちを取り除ける?

忘れられるんだ?


「忍足が好きなら初めから俺に近づくんじゃねぇよ!!」


近くにあった白鳥のガラス細工を手に取り、床に叩きつけようとした。

しかし、それさえもできなかった。

幸せはまるでガラス細工のように脆く、一瞬で崩れることを俺は知っているから。


「バカヤロー…」


跡部景吾がガラス細工のように繊細で壊れやすいものだと誰が想像するか。

帝王という名の故に俺は強く立っていなければならない。


いや、しかし帝王という名の故に立っていられるのかもしれない。





キズが痛まないとか
どんな強い人間だろうがそんなことあり得ないんだ





** END **



あきゅろす。
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