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まいた種が実るとき


「好きじゃ。」


春に種をまいた。

実が生(な)るかどうかもわからない種を。


『詐欺師は相手を騙して傷つけるからダメ。さらに拍車をかけてるのよ、女たらし。』

「俺はこんなにもお前に愛を伝えとるんじゃがのう、」

『それが胡散臭い。』


ゆっくりでもいい、少しでも明良の気持ちが俺に向けて成長すればいい。そう思いながら種をまいた。

それから季節は巡り、秋になった。収穫時期に差し掛かるが未だ収穫はない。それでも俺はめげずに水を与え続けた。


「未だに明良への思いを貫いとう。それでもまだ信じられん?」

『ッ、』

「いつまで俺を試すん?詐欺師は信用ならん?」

『……信じていいのかな?』

「信じてほしいからこうして言うとう。明良、」

『ん?』

「好いとう、」

『………』


いつものパターンから言えばこのあと明良は必ず逃げる。

しかし、今回は逃げられないように明良をギュッと抱きしめた。

言うまでもなく抵抗するが女の力でどうにかしようなんて無駄だ。

特に普段から鍛えている俺が相手となれば余計。

どうすれば明良に信じてもらえるか考えた末のことだった。


「こんなに胸が高鳴るのは相手が明良だからなんよ?」


そう言って耳を胸に押しつけた。

普段より少し早い鼓動に聞き入ってなにも言うてくれん明良。


「なんか言うてくれん?」

『……本当に好き?』

「え?」

『私のこと、本当に好きなの?』


そう不意に聞かれ、答えるのにワンテンポ遅れた。

もちろん答えはイエス。


『……信じていい?その告白、』


そう続けて聞く明良に俺は答える――信じてくれ、と。

ふと笑う声が聞こえると##name1##は顔を上げ、俺の髪に手を伸ばした。

そして前髪をツンと引っ張って一言、バカ、と言うた。


『詐欺師でも心臓は嘘を付かないのね、』

「なん?」

『鼓動が真実を語ってた、』


そう笑顔を見せた明良。

実っていた。

不安だったが俺の気持ちは無駄にはならなかったのだ。


「付き合うてくれるん?それともまた俺ん失恋記録更新させるんか?」

『ッ、』

「そろそろはっきり答えんしゃい?もう詐欺師だから、ってのは理由にならんよ?」


人に裏切られた経験があるという明良にすれば詐欺師と呼ばれる俺の気持ちを受け止めるか、否かは重大な問題だった。

しかし、偽りはないとわかった今、躊躇する理由はない。


『……す、』

「酢?」

『…す、』

「巣?」

『……バカにしてんの?』

「とんでもない。」


熟した実は甘く、口の中に香りが広がる。

育てるのに少々手間取ったが収穫できた喜びが苦労や心痛さえも忘れさせる。


『好き……自分を偽れない自称、ペテン師さん?』





まいた種が実るとき
秋の収穫物、それは彼女でした





** END **
執筆/2007.10.3(夢コン)


「すべてが偽りでないとわかったん?」

『うん、』

「なら、返事聞かしてくれん?」

『え?』


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