度々、振り向いて? ある授業中の話。 何かあったらしく教師は自習してろ、と生徒たちに言い渡し、授業を放棄して教室を出ていった。 それに対してみんな真面目に自習をするわけがない。 それは私も同じで教師がいなくると同時にペンを投げ出した。 『ねー跡部?』 「あーん?」 前の席に座る跡部に声をかけると彼は耳だけ傾けて返答してきた。 こちらを向くのが面倒くさいのだろう。 『暇ー』 「教師がいなくなったと同時にペン投げ出した奴が言うセリフじゃねぇな。」 前を向いているくせになんで私の行動がわかったのだろう。 まるで後ろにも目があるみたい。 「暇なら自習でもしてろよ。」 『勉強はしたくないの!』 「なら、岳人みたいにペン回しの練習でもしてろ。」 面倒くさそうに言われて向日を見れば、かなり真剣にペン回しの練習に励んでいた。 時折、指から滑らせて飛んでいったペンを拾いに席を立っていた。 向日を見ていれば少しは時間を潰せるだろう。 しかし、気持ちがつまらない。 『あーとーべー!』 「あーん?」 次に言ったそれには今度は何だ、の意が含まれているだろう。 私がつまらない、と言えば携帯でもいじってろ、と言われた。 『せめてさー?』 「んだよ?」 『せめてこっち向いてよ。背中に話しかけてるの寂しいし。』 なんで前を向いてるのかわからない。 そう言えばのどを鳴らして跡部は笑いながらこっちを向いた。 その手には洋書があった。 こちらを向かなかったことを考えるとよほど私の相手が面倒くさかったんだと思う。 「そんなに俺にかまわれたいのか?」 一瞬、その台詞にドキッとさせられた。 跡部が私の机に手を突くと顔が一段と近くなった。 「フッ、暇なんだろ?」 不意に唇に唇を重ねられた。 一瞬の出来事に瞬きをする暇すらなかった。 『な、なにすんのよ!』 許可もなしにいきなりキスされたことに憤慨すれば跡部は不適に笑って言う。 「暇だと思えないくらい俺のこと考えてろ、」 そんな文句はいりません。 内心そう悪態をついたが、 『(あ、あれ?)』 跡部にドキドキして、あれやこれや考え始める自分がいた。 度々、振り向いて? おまえがなかなか振り向きやしないからキスに気持ちを託したまでだ ** END ** |