速く完走したくなる。
授業中、急に気持ち悪くなった。
見る見る内に顔色も悪くなっていっただろう。
それと隣の席である岳人が気づいたみたいで声を掛けてきた。
「明良、平気か?」
『…気持ち悪いの、』
「保健室行ってこいよ。一人で行けるか?」
それに対し、私が返事をしようとしたときには聞いていなかった。
おそらく、私の状態を察してくれてのことだろう。
岳人らしいと言えばそれでおしまいだけど。
「せーんせー?明良が気持ち悪いみたいなんだけど一人でいけなさそうだから俺送ってくるー!」
「そうしてやれ、」
教師から許可を得、岳人が私を促した。
教室を出てから隣を歩いてくれる岳人だけど跳ねるのはやめてほしい。
視界がグラグラ揺れて吐き気が増す。
『ッ、』
「どした?」
『――!』
「え?なに?待て待て!」
こみ上げてきたものを必死に口元を押さえて堪える。
呼吸が出来なくて苦しい。
岳人は近くの男子トイレからバケツを持ってきてくれた。
「バケツが汚いとか言ってる場合じゃねーからな?」
そう促し、岳人は私の背中をさすってくれた。
吐き出すものすべてを吐いて落ち着いたころ、口を濯(ゆす)ぎに水飲み場まできた。
バケツを片付けに行ってくれた岳人には申し訳ないと思いながらその場で帰りを待った。
「明良!」
しかし、戻ってきた姿は岳人ではなく、彼氏である景吾だった。
岳人から聞いたらしい。
彼は心配してくれているけど私としてはあまり嬉しくはない。
「あのよ、」
『う、うん…?』
「妊娠してんだろ?」
『は?』
「岳人が言ってたんだよ。明良が妊娠してるって。」
『ちょ、待って?なんの話?』
「俺はよ?明良に産んでもらいって思うから『ストップ!』
景吾を制止させると不満げになんだよと呟いた。
彼は非常な誤解を招いている。
大体、岳人の情報という時点で怪しんでほしかった。
彼は私が妊娠ゆえの悪阻(つわり)だと思ったようだ。
先の景吾の言葉から理解できたが、彼は責任をとるつもりらしい。
私は申し訳なく思いながら、形見の狭い思いをしながら事情を説明した。
「……生理?」
あなたが言いたいことはわかります。
最近の私の生理には悪阻のような吐き気を伴うことを彼は知らなかったらしく、真実を知ってあんぐりと口を開けていた。
「チッ、せっかく人が父親になる覚悟決めて来たのによ?」
『ごめん、』
「ま、近い内に明良に俺の子供を産ませたいとは思ってたからそんな大層な話じゃねぇけど。」
『…ん?近い内に景吾の子供を?ちょっと、早くない?』
「今回は妊娠騒動になると踏んでたんだがな。」
『あー!じゃあ、ゴムしなかったのってわざとなの!?』
切らせた、とか言ってたけど確信犯だったってわけね。
だから岳人の情報を真に受けたんだとわかった。
速く完走したくなる。
まずは学校卒業して景吾が18になったら結婚。子供はそれから!
** END **
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