恋を知ると
ある日の夜、急にコンビニの肉まんが恋しくなった、というか無性に食べたくなった。
見れば時刻は9時。
そう面倒でもない条件だったし、俺は財布と携帯を持ち、立ち上がった。
「母さん、ちょっとコンビニ行ってくるわ。」
気をつけるのよー?なんて声に適当に返事をして俺は家を飛び出した。
すると寒い空気に頬を撫でられ小さく身震いした。
少し歩くとすぐコンビニが見え、俺は駆け込むように走った。
外とかなり温度差のある店内の空気がなんだか目にしみた。
「肉まん一つ、」
たった100円のために寒い思いをしてコンビニまできた自分がアホ臭く思えたのは肉まんを手にしてからだ。
しかし、欲求を満たし、満足して出口へ向けて歩いていたときだ。
カツカツとテンポよく、出口に向けて音が近づいてきた。
俺は振り返ったが状況を見てすぐによけることはできなかった。
ドン!と腕と体がぶつかると相手(おんな)がその場にこけた。
持ち物がワッと散らばり、俺は肉まんの袋を口でくわえ、散らばったものを集めた。
『す、すいません。』
「いえー」
下からは肉まんの香りがするのに、あれほど肉まんを恋しく思えたのに、俺は相手の女の甘い香水の香りに夢中になっていた。
鼻につくようなのじゃなくて優しい香りだった。
『ありがとうございました!』
「いや、気にしないでいいっスよ。」
彼女は急いでいたらしく、一礼をしてから慌てて店を飛び出した。
その後、目に留めたのはボールペン。
たぶんぶつかった後、拾い忘れたのだろう。
すぐに外に出てあたりを見たがその姿はなかった。
俺はそれからどうしても彼女にボールペンを返したくて毎日のように夜、あのコンビニへ向かった。
しかし、なかなか彼女に会うことはなかった。
諦めかけていたその時だ。
すれ違った時に香ったにおいで振り向いた。
「あの!」
『?……あ、あの時の。』
やっと会えた、覚えていてくれた。
もう、なにに喜べばいいかわからなかった。
「あの時、ボールペン拾い忘れてたっスよ。」
『持ってて…くれたんだ?』
嬉しそうにボールペンを受け取るとまた笑顔でお礼を言った彼女に俺の鼓動は狂うばかり。
『今度お礼したいな、』
「そんな、たいしたことしてないっス。」
『私、早苗明良。』
「宍戸亮っス。」
『うん、知ってる。』
「なんでだよ!?」
『テニスの試合、見に行ったときに宍戸くんを見たことあるから。』
「マジかよ……て、ことはテニス関係者?」
『それとは少し違うかな?でも、今はそう言っておく。』
無邪気に笑った彼女に心臓がドクンと大きく打った。
彼女が同じ氷帝の3年だということを知ったのはその数日後だった。
恋をすると
出会いは突然だけど必然だったり
** END **
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