君のためなら
窓からちらつく雪を見ていると体温計が測定完了の合図が鳴る。
『37.8℃か…』
熱冷ましを飲むには低い。
寒さに身を震わせた私はカーテンを閉めてまたベッドに潜り込んだ。
本当なら犬のようにはしゃぎたい。
しかし、こういう肝心の日に限って風邪をひいてたり、熱を出したりする。
『……はぁ、ついてない。』
熱っぽいため息を吐いて仕方なくベッドに入った。
時たま気になり、諦め悪くも窓を何度も見た。
そんなことをしているうちに眠りについていた。
それから知らぬ間に時計は進み、コンコンと窓から音が聞こえて目が覚めた。
額の汗を拭ってから身を起こし、イスにかけて置いたカーディガンを羽織り、窓に近づいた。
カーテンをあけて見ればそこには小さな雪だるまが一つあった。
『誰だろ……って、犯人分かりやすいよこれ。』
窓を開けて手に取ったそれはいかにも甘そうなキャンディ。
幼なじみである彼の優しさが溢れた贈り物だった。
「お、明良。」
『…ブン太、』
「風邪マシになったか?」
『うん、少しね…』
「まだ熱ありそうだな?」
私のおでこに触れたその手がすごく冷たくて、今さっきまで雪だるまを作ってくれていたことを悟った。
『ブン太?』
「んだよ?」
『ありがとう、』
「なんのこと?」
『これは私の好きな味だし、雪に触れられない私のために雪だるまを作ってくれたんでしょ?』
そう言えば、とぼけつつも彼の口は不満げに曲がっていた。
きっと、雪だるまに気づくように窓をノックしたんだと思う。
まるで通りかかった、と見せかけて私の様子を見に来てくれた。
バレバレだけど。
でも、私はブン太のさりげない優しさがすごく好き。
「それ…マジ?」
『え?』
口に出して言っていたらしく、ブン太の一言で気づいて口を押さえて背中を見せた。
それを見たブン太がガサガサと物音を立てから私の肩を叩いた。
恐る恐る振り向けば、口を押さえていた手を除けられ、唇を奪われてしまった。
しかし、それだけじゃなかった。
「俺も明良が『ブン太!私、風邪ひいてるのよ!?』
「俺の話最後まで聞けよバカ。」
『うつるでしょ!?』
「……」
口の中には口移しで受け取ったあなたからの気持ちが詰まったキャンディがあった。
君のためなら
おまえにうつされるなら喜んで
** END **
#2007.12.8
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