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キスは甘い味


口の中で歯に当たり、カラコロと音を立てて転がる一つのキャンディ。

部活帰り、今日の仕事を努めきった私にご褒美として丸井がくれたものだった。


「おまえさん、なんか食うとう?甘ったるい匂いするじゃけど、」


それと気づいた仁王が少し眉間に皺を寄せた。

甘ったるい。

その表現から彼はあまり甘いものが好きではないとわかる。


『丸井がくれた。』


目の前でテニス部の日誌を書いている仁王。

マネージャー用の日誌は部活がある事に書かなくてはいけないが日誌は当番制となっている。

今日は私と仁王が居残りをして日誌を書いている。


「なに味?」


会話をすることが特にないのかそう尋ねて来た。

フレーバーの強い香り、たとえばメロン、桃、オレンジなどだとしたらそんな質問は無意味だけど。


『当ててみれば?』

「バナナ、」

『バナナの飴なんか滅多にないと思う。』

「カキ、」

『…それもないと思う、』

「ドリアン、」

『そんなの食べてたら臭いでしょ!?』


からかっている、または私で暇をつぶそうという魂胆(こんたん)だろう。

私は仁王に冷たい視線を向けた。

すると楽しそうに仁王は私の唇をつついた。


「明良が舐めとう飴ん種類くらいわかるに決まっちょるじゃろ?」


仁王は自分の指についたであろうねちゃっとしたものを舐めた。

というのは、キャンディを舐めている私は時たま自分の唇を舐めたから。


「さて、答えじゃけど、」


そう言いながら身を乗り出してきた。

そして、私の両手を掴んで自分の方に引き寄せると唇が重なった。

手に持っていたペンを滑り落としてしまった。


「ごちそうさん、」

『ちょ、なにするの…!』

「嫌だったんか?」


私に答えを求める質問は反則だ。

なにも言えずに黙り込む私を見て仁王は言う。


「ファーストキスはマスカット味、」


そう言った仁王を見れば言葉では言い表せないような表情をしていた。


「悪い。暇じゃったし、魔が差したって解釈してくれん?」


仁王は逃げるように立ち上がると帰る支度を始めた。


『仁王!』

「…なん?」

『なんかほかに理由ないわけ?今のじゃ、ただ唇奪われただけにすぎない。』

「なら、どんなんがいい?」


そう言われ、どうでもよくなった。

理由はなんにしてもファーストキスはなくなった。


『好きな人としたかった……』

「じゃから、悪いて言うた。」

『仁王が私を好きだったらそれでよかったのに、』


そう呟いて知らぬ間に流れていた涙を拭った。

日誌をまとめて私は荷物を手に取った。


「好き、って言えば許されるん?」

『……』

「さっきは明良んこと考えて魔が差したって言うたけど、本当は明良が好きだからキスしたかった。これでどうじゃ?」


仁王が私の目を見て、瞳を揺らしていたから嘘だったらどうしようとか思わなかった。


「さっきのキス、やり直しって利く?」





キスは甘いの味
飴がなかったらキス逃げできんかった





** END **
#2007.12.4


あきゅろす。
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