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シアワセな金魚たち


――ある朝。


景吾が新聞を見ながら優雅にコーヒーを飲んでいた。


「今日、祭りがあるんだな?明良、行くか?」

『え?連れてってくれるの?』

「今日なら仕事も早くに切り上げられそうだしな。」

『楽しみにしてる!』


そう答えると朝食後の食卓テーブルを片づけた。

いつもと違うことといえば、上機嫌で片づけを済ませたこと。


「アイツらに餌やったか?」

『これから〜』


片づけが済むと次に私は二匹の金魚に餌をやる。

水槽をコンコンと軽く叩けば餌を食べるために二匹は浮上してきた。





彼と付き合いだ頃、開かれたお祭りに二人で行った。

そのとき、どうしても金魚すくいで金魚をすくいたくて長い時間粘った。

その結果、奇跡的に一匹だけすくえた。


「金魚なんかどうすんだよ、」


そんな風に景吾は呆れていたけど、それなりに理由があった。


『この金魚に景吾って名前付けるの。』

「はぁ?」

『景吾は忙しいでしょ?だから景吾の代わり?』

「バカ。金魚に身代わりなんか……んなことしなくても明良のためなら時間くらい作る。」



それから時は経ち、景吾と名の付いた金魚は大きく成長していった。

もう一匹は結婚してから催されたお祭りですくった金魚で景吾は結婚当時の自分たちになぞらえ、その金魚に名前をつけた。


「よかったな、景吾。無事に嫁を迎えられて、」


景吾の元へ来た金魚、つまりお嫁さんとして明良と名付けた。

幸せだったからその時は雄か雌かわかりもしないのに、なんて現実的に考えなかった。

大きさの違う金魚は喧嘩することなく、対面させてから信じられないほど仲良く寄り添うようになった。


『まるで私たちみたい。』


そう言い、顔を見合わせて笑った。

今も変わらず仲が良いね?なんて言えば金魚に対抗して景吾が言う。


「金魚なんかに負けねぇくらい俺らは仲が良いけどな?」


結婚して2年が経つ今でも金魚の景吾と明良に負けないくらい私たちは幸せ。





――その日の夜。

景吾とお祭りに来た。

仕事は終わらなかったみたいだけど、約束は守ってくれた。


「明良と行きたかったんだよ。」


ツンと鼻を高くしてそっぽを向いた景吾が可愛く見えたのはお祭りの雰囲気のせいにしよう。


『あ、金魚すくい。』


私はお祭りがある度、特に金魚すくいに気を留めてしまう。

そして、うちにいる金魚のエピソードを思い出す。


『ちっちゃーい!』


小さな金魚たちを見て頬を緩ませていると隣に景吾が屈んだ。


「欲しいんだよな、」

『え?うちには景吾と明良がいるじゃない。』


増やしたら世話が大変になる、と危うく主婦の意見を突きつけてしまうところだった。

数秒後、愛する貴方からの言葉を聞いて涙を流してる私がいるはず。

そして、目の前にいる小さな金魚をすくおうと頑張る子供臭い貴方がいるの。

あぁ、私って幸せだな。





シアワセな
金魚たち

「俺たちの可愛い子供がな?」





** END **
#2007.9.10(夢コン参加)



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