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笑って見せて


生まれて初めて告白されて付き合った彼と大人のような恋をした。

本当に好きだと思えた。

なのにある日、景吾に握らされた物を見て目を丸くした。

それは私がプレゼントした男性用のブレスレットだった。


「返す、もういらねぇから。」


そう冷たく言われた言葉を完全に理解するのに時間はかからなかった。

昨日まで笑いあっていたはずなのに景吾の心境は私とは違っていたのかな?

でも、いつもと変わらず、幸せそうに笑っていた。


「もうおまえに飽きたから、」


なにを聞いても彼は別れの言葉を呪文のように繰り返して言うだけ。

私が泣いても、もう彼は暖かい手を差し伸べてはくれなかった。


『なんで?悪いところがあるなら直すから!だから…』

「(なんで、なんて聞くな。それは俺が一番知りたい答えだ。)」


必死に訴えて、すがったけど彼は私の手を振り払った。


「じゃあな、」


去りゆこうとした彼を引き留めるのが今の私に出来た、ただ一つのことだった。


『ねぇ!……好きでいたらダメ?景吾を忘れるなんて出来ないよ!!』


こんなにも景吾を愛してしまったからせめて思うくらい許してほしかった。


「悪いが迷惑だ、」


だけどあっさりそう言われ、空虚感を感じてその場(道路)にペタンと座り込んでしまった。


「(好きって気持ちだけじゃどうにもならないときもあんだよ。)」


最後に見た景吾の背中が寂しそうに見えたのは私の気のせい?


「(手放したくないくらい愛してる。本当は愛してるんだ明良!)」


ハッキリした理由もわからず、混乱した私は握っていたブレスレットを腹いせに投げた。

でも、それが景吾との思い出だと気づき、慌てて拾いに行った。

その時だ。


――キィィィィ!!





意識を取り戻したとき、私が始めに見た物は真っ白な天井だった。

さらにツンと鼻につくにおいで自分の居場所が病院だとすぐにわかった。


『(あ……車とぶつかったんだっけ?)』


なんて長い時間ぼんやり考えていると仕切り代わりのカーテン越しで聞き慣れた声が聞こえた。


母と男の子の声でその会話を聞き、私はある行動に出るしかないと思った。

会話を終えるや、母と彼はカーテンを開けた。


「明良!目が覚めたのか、よかった……」


目を覚ましたことを知った人物が私の顔をのぞき込んだ。


『……誰?』

「!」


目の前の彼が誰かわからないふりをして尋ねたけど彼は答えてくれなかった。

頬に滴が滴るのを感じて彼を見れば顔を歪めて涙を流していた。


『なんで泣くの?』

「俺が……俺が別れようだなんて言ったから、だから…明良が、」


彼の涙を見て、胸が苦しくなった。

耐えられない。


『ねぇ?笑って?』

「は?なにバカなこと言いやがる!!今、明良がこんな状態だから笑えるわけがない。」

『でもね?私、わからないけど貴方には笑っててほしいの。』


手を伸ばして彼の涙をパジャマの裾で拭いてあげた。

優しく微笑むと彼はぎこちなく笑った。

悲しみが溢れるその顔が笑顔で満ちるのはいつなんだろう?


『笑ってる方がずっといいよ!』


そう微笑むと抱きしめられた。

腕を回すわけにもいかず、どうしたらいいかわからないまま硬直していた。


「ごめん、明良…俺、おまえを苦しめたくなかったんだ。婚約者がいて、明良と別れなかったら明良の家族はどうなっても知らねぇって親父に脅されて、悩んで……」


らしくねぇよな、と彼は呟いていた。


『貴方の話を聞いてたら私は大切なことを忘れているみたい。でも、思い出さない方がいいこともあるんだね……』

「俺は明良が好きなのにか?愛し合っていたことを思い出さないつもりか?」


涙をグッと堪え、景吾を一心に見て言った。


『…残念だけど今の私は貴方が好きだった“明良”じゃないもの。』


その言葉が景吾を突き放す最後の力を振り絞ったものだった。


『だから、貴方の好きだった明良にとびきりの笑顔、見せてあげて?』


景吾は私を嫌いになったわけじゃないとわかった今、これからも景吾を好きでいていいんだと思うと少し嬉しかった。

だから最後に――





笑って見せて
あなたの笑顔を忘れないように脳裏に焼き付けた





** END **

2007.9.11
企画(春夏秋冬)提出作品



あきゅろす。
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