素直になれず
『こないだからなんなの!』
「うるせぇ!目障りだ。さっさと帰れ!」
『ッ、…あ…とべのバカ!!』
涙を拭いながら去っていった明良を視界にとらえた俺は自分の言動に後悔して振り向いた。
しかし、もう遅い。
彼女と出来た溝は修復できないくらい深いだろう。
秋になって外での練習は楽になった。
体を動かす側には程良い涼しさだが、見ているだけのマネージャーにしたら寒いのかもしれない。
怠けたことを言った明良に俺は厳しく注意した。
些細なことでの喧嘩は今回だけの話ではなかった。
「今のはヒドいんとちゃう?」
「…アイツがいると気が散んだよ、」
「見てて思うけど、明良のこと好きなんやろ?」
その忍足の言葉を嘲(あざけ)り、否定すれば、アイツは不敵に笑いやがった。
てっきり、好きな子をいじめるガキに戻ってもうたんかと思うたわ。
そう言って俺を侮辱しやがった。
俺は恋愛に関して宍戸みたいに経験が浅いわけでも、宍戸みたいに鈍感なわけでもない。
「跡部の明良に対する態度見てて、そんな恋愛もありなんや〜て思うてた。」
「ドラマの見すぎだバーカ。」
忍足を軽くあしらって俺は定位置(ベンチの中心)に着いた。しかし、いつも隣にいた明良がいない分、そのベンチが長く感じた。
彼女が隣からいなくなり、存在の大きさに気づく俺。情けなく思う。
秋の冷たくなった風が頬を撫でていくと身を震わせた。
寒いと気づき、空を見上げた。
部活が終わったら、会いに行こう。
そして一言、ごめんと謝ろう。
許してくれるまで。
俺はそう心に決めると時計を見る回数が増えた。
そして、徐々に緊張と会える嬉しさから鼓動が早くなった。
素直になれず
恋したことを認めたくなかっただけかもしれないな?
** END **
#2007.10.5
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