春、恋の奇跡
ある晴れた暖かな日。
道路ぶちのアスファルトを突き破って黄色い花をみんなにお披露目しようとしているタンポポを見ると「あぁ、春だな」と実感したり。
私はこの4月、晴れて大学生になるわけでちょっと子供から大人になろうと背伸びしてみようかと思った。
パーマをかけて、ピアスを開けて、今まで着たことがないふわふわ系の服を着てみたり。
ちょっと恥ずかしいのはいつかなくなるんだから、と思い切っての行動だった。
『(ランチ何にしようかな…)』
昼食をとるのに立ち寄ったレストランで幾つかランチメニューのかかれた手書きの看板を眺めていた。
「あぁ、いいぜ。またな。」
近くで聞こえた声に振り返って驚いた。
だって、高校1年の時に教育実習生として一時期来てくれた先生がいたんだもん。
『嘘、跡部先生!?』
「あ?」
私が驚いた声に反応してくれたのはいいけど、ちょうど電話を終えたところみたいでよかった。
『私、早苗明良です。』
「自己紹介なんかしなくったって覚えてる。久しぶりだな。」
最後にあってから数年が経ってしまっていたから、私のことを忘れているか、覚えていても変わり果てた姿にわからないかもしれないと思った。
だから、先生が覚えていてくれたのはちょっと嬉しかった。
『ぜんぜん変わってないからわかりました。』
「たった2年ちょいで変わってたまるかよ。変わっていいのは女だけだ。」
そう前と変わらず喉を鳴らして笑う姿に懐かしさを感じていた。
跡部先生は先の言葉に付け加えるようにして綺麗になったな、と褒めてくれた。
それが例え、お世辞でも嬉しいものだ。
『ありがとうございます。今年から大学生だからイメチェンしてみたんです。』
「俺はてっきり春だから恋に溺れてるのかと。」
『残念でしたね。』
「まぁ、早苗は高校時代そんな感じの生徒ではなかったよな。」
『でも、恋くらいしてます。』
「今もか?」
何となくムカついて言い返した言葉に対し、投げ掛けられた問いにぐっと詰まるような苦しさがあった。
恋なんてしたくて出来るもんじゃないですよ、と内心で悪態をついた。
「その反応じゃ、春はまだ先か?」
『わかんないですよ!もうそこかもしれませんから。』
「もうそこ…ねぇ。なら、俺と春を迎えるか?」
口角が持ち上がっている。つまり、私をからかっているんだ。
そうとわかりながら、なんて素直な反応をしてしまったんだろう。
『教え子との恋は禁断物です!』
「そういうのって燃えるだろ。」
なんて恥ずかしいことを言うんだろう。おかげで顔が熱い。
もう、高校を出てしまったのだから跡部先生と恋をしたところで問題はない。
でも、どこか引っ掛かる。
『先生、もしかして今フリーなんですか?』
「悪かったな。数年前からフリーで。」
『先生なら彼女なんてすぐ出来そうなのに。』
「ここまで来るのに待ってたからな。」
優しく笑って私の頭に手を載せてきたことでなんとなく言いたいことはわかった。
でも、自惚れたくはなかったからなにも言わなかった。
だって、そんなことあるはずがない。
「このあとの予定は?」
『え?あ…別にないです。』
「そうか、ならちょうど昼だし、俺がランチご馳走してやるよ。」
『ホントですか!?』
「ただし、それだけ払えよ。」
代わりになにかを買わせるつもりなのか。ちょっとセコい、なんて思ったけどこんな格好良い人と恋が出来るなら…。
『私に払えるなら。』
「おまえじゃねーと払えないんだよ、明良。」
『っ、』
それはばったり会った先生と少し大人になった私が恋に落ちた春のこと。
当時、先生のこと憧れからでも恋心を抱いていた私としては夢のようだった。しかも、先生が私の高校卒業を待ってくれていたなんて。
「俺のこと先生って呼ぶなよ。」
『じゃあ、なんて…』
「先生って呼ぶ毎(ごと)に罰な。」
『ば、罰!?』
「簡単だから安心しろ。キスで許してやる。」
『簡単じゃないです!』
「(…フッ、ホントに可愛いヤツ。)」
これから散々振り回されることを覚悟していなければ、と思う。
春、恋の奇跡
先生、少しずつ大人にさせてね
** END **
20090331
誰かと恋をしたことがないヒロイン。
跡部先生に手取り足取り教えてもらってください。
…みたいな*笑
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