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忘れない9memory


毎日毎日まーいにち、よく飽きないね?

これは私の口癖になりつつある台詞。本当に毎日、学年が違うのに私の教室へ足を運ばせる彼には呆れる以外になかった。

彼氏がいる私の元を訪れても仕方ないことを知っているはずなのに。


「明良先輩、おはようございます。」

『…おはよう。』

「今日、俺部活ないんです。一緒に帰りませんか?」


テニス部レギュラーの彼は鳳長太郎。私たち3年からも年下の1年からも人気がある子だった。

そんな彼が私の元へ来ることにクラスのみんなは慣れてしまったらしく、なにも言われなくなった。むしろ、温かい目で見守られていた。


『(今日は彼氏学校休みってメール来たし…)』


彼氏がいないからって言うのを理由にはしたくないけど、帰りはどうせ一人だしなんて思う自分がいた。


「やっぱ、ダメですよね…」


いつも私からの返事は決まっているから長太郎くんは期待はしていなかったみたいで大きな体に似合わず、肩を落としている様子は可愛く見えた。犬で言えば耳ががっかりして下がっている感じだろうか。


『いいよ。』

「え?」

『なによ。誘ったの長太郎くんでしょ?』


OKをもらえるなんて全く思っていなかったみたいで私の返事を聞いた彼は固まっていた。しばらくしてからぱぁっと明るい表情へと変わり、それは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、迎えに来ます。」

『玄関で待ち合わせよ?いつも来てもらってばかりで悪いし。』

「わかりました。じゃあ、玄関で待ってます。」


彼氏がいるのに不謹慎だろうか。だったとしても私は毎日来てくれる彼に少なからず愛着を抱いていたのかもしれない。


その日の放課後、待ち合わせの玄関に向かうと彼は下駄箱に寄り掛かり、外を見ていた。その姿が何とも健気で胸がキュッと締め付けられた。


『お待たせ。』

「あ、明良先輩!」

『帰ろっか。』

「はいっ!」


歩き出した私の隣に並ぶべく、彼は足を早めた。まるで犬のように。そんな姿を優しい眼差しで見ていたことに私は気付いてはいなかった。

さて、一緒に帰るはいいけど彼の家の方向なんて知らない。彼だって私の住んでる場所なんか知らないと思ってた。なのに彼にリードされるかのように私の家の方に向けて歩いて行っていた。


『あの…長太郎くんは家どこなの?』

「どこでしょうねー?」

『逆だと悪いから聞いたんだけど?』

「例え逆でも、明良先輩の家の近くって答えますよ。」


たぶらかそうとした彼に答えてもらえるような形で促すと彼は意地悪くそう言った。彼を心配してのことなのにそう言われて少し苦しかった。それが表情に表れてしまっていたのか、長太郎くんは優しい笑顔を私に向けて改めて答えてくれた。


「明良先輩の家の近くじゃなきゃこっちになんて歩いてませんよ。」


そうじゃなきゃ、先輩の帰路を知ってるなんてただのストーカーです。

そう言った彼に笑ってしまった。彼は他人に関しては本当に素直だ。自分に対しては多少の偽りがあっても、最終的には素直になってくれるから一緒にいても苦にはならない。彼氏とは違う。――彼氏とは。


「……あ。」

『え?なに?』


急に立ち止まった彼は私の腕を掴み、くるっと踵を翻すと今来た道を戻り始めた。私は急に掴まれたことにどきどきした。でも、それはたった一瞬だった。


「このままだと折角OKくれた放課後デートが終わっちゃうんで別の道を通って廻り道して帰りましょう。」


なんて気を遣って言ってくれた言葉が嬉しかった。そんな優しさを最後に受けたのはいつだったかな?


『いいよ、長太郎くん。』

「え?」

『この道でも……平気だから。』

「まさか知ってて…?」


何故彼が廻り道しようとしたのかというと、この道の向こうから彼氏が私の知らない女の子と手を繋いで歩いてくるのが見えたからだと思う。幼児のような手の繋ぎ方ではなく、まるで恋人同士のような繋ぎ方で。


『…うん。知ってた。』

「………っ、」


もっと上手に笑いたかったのに心にあるものが滲み出てしまった。私も自分の感情に素直な人間だ。きっと哀愁漂わせ、力無く笑ってしまっていただろう。


「俺じゃダメですか。」

『…え?』

「明良先輩の彼氏、俺じゃ務まりませんか?」

『長太郎くん……』


立ち止まって話しているうちに彼氏は私たちの近くまで接近していた。その彼氏は私に気づき、全く悪いと感じていないらしく話しかけてきた。


「あらー明良じゃん。明良も鳳くんとデート?」


彼――千石清純の女癖が悪いことは知っていた。それを知っていて付き合っていたのになんでこんなに苦しいんだろう?


『違うよキヨ。帰る方向がただ一緒なだけ…』

「なーんだ。違うんだ。それは残念だね鳳くん。」

「千石さん!」

「なんだよ怖い顔しちゃってー」


声を上げた長太郎くんを見上げると怒っているように見えた。それに対して怯まないなんてさすがと言うのか。キヨが仲良くなる彼女たちの彼氏から散々恨まれれば、恨まれ慣れるもする。


「明良先輩は大事じゃないんですか!?」

「もちろん、明良も大事だよ?」

「……そうですか。なら、俺はあなた以上です。」

「ふーん?なんでそう言えるの?人の感情って天秤で計れたっけ?」


キヨの返答は全く嬉しいものではなかった。長太郎くんが怒るのもわかる。ただ、それに対してのキヨの反論は最もだった。


「計れませんが計れます。あなたは明良先輩も大切だと言いましたが、俺は明良先輩だけが大事だからです。」


まさか長太郎くんが彼の反論に対抗するとは思いもしなかったから私を苦しめるには十分すぎた。その言葉にキヨが連れていた彼女は笑っていた。きっと彼女も理解の上でキヨといるのだろう。でも私は――…


「じゃあ付き合っちゃえば?」

『っ、』

「軽々しく言わないでください。明良先輩はあなたとは違うんですから。」

『長太郎くん、もういいよ。』


止めなければ永遠に続きそうで怖かった。これ以上、自分に傷をつけたくはなかった。そして、これ以上、胸が縮まるような苦しさに耐えられなかった。


「ま、全部彼女次第なんだよね。俺がこうだっていうの、付き合いだした頃に気付いてただろ?」

「最低ですね。」

「でも、俺のカノジョは明良だけだから最低かどうかはわからないよ。それも明良次第だから。」


そう言い残したけどキヨが立ち去り、それだけで胸を撫で下ろすようにホッと安心してため息が出た。


「なんでですか?なんで自分を苦しめてるんですか?」

『わからない。でも、苦しんでないよ。』

「苦しんでるじゃないですか!なんでそんな顔してて苦しくないだなんて言えるんですか!」

『……苦しめてるのはキヨじゃない。長太郎くんだよ。』


無意識に零れた言葉に自分で驚いていた。そう言われた彼はもっと驚いただろうけど、私の場合は嬉しい驚きだった。


「すいません…知りませんでした。でも!」

『安心して?』

「……」


うまく伝わるだろうか。自分が気付くよりずっと前から今まで温めてきたあなたへの思いと私の心が奏でる恋の“ウタ”が。


『私、新しい恋出来そうだから。』


伝わると良いな。ううん、きっとあなたなら、私に数知れぬときめきをくれたあなたなら気付いてくれる。


「……明良先輩、手繋いでも良いですか?」

『うん、…いいよ。』


あなたとならいつまでも大切な思い出を作っていける。そう信じて、私は長太郎くんに手を差し出した。握られたその手から彼の愛情が伝わり、今までにないくらい切なく、苦しくなった。

でも、それはまだまだ始まりにすぎないのです――。





 忘れない9memory
 この苦しみはきっと治らない





** END **

20090227

閉鎖した「9memory」そして、愛するうーたんへ捧げる長太郎切甘夢。長太郎が大好きだと言っていたうーたんが長太郎愛を忘れないようにv

補足:「9memory」は「きゅんめもりー」ということで胸キュンな思い出になる話をお届けでしたv




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