愛しすぎて 呪われた屋敷へ来たときには俺が知っている明良の姿はなかった。 彼女の額からは血が流れ、頬は変色していた。 見れば見るほど痛々しい姿だった。 「ッ、明良になにしよったんじゃ!!」 俺はただ、彼女の幸せを願っていただけなのに。 俺が今見てる世界は血塗られた地獄の世界と化していた。 「知るかよ。いきなり消えたんだ!!」 狂ったかのように床に付着し、乾ききった血を撫でる目の前の男は彼女の夫―跡部景吾。 大富豪とも呼ばれる奴は妻の変わり果てた亡骸(なきがら)を抱きしめ続けていた。 これは残酷な物語? ホラー映画のワンシーン? いいや。 目を逸らすことができない、現実だった。 「明良を…明良を返せっ!!」 彼女がどれだけ涙を流し、辛い思いをして助けを叫びを求めたのか。 明良にしかわからない。 明良を真剣に愛していただけあり、俺にすれば嘆(なげ)かわしい出来ことだった。 せめて、この手で明良を抱きたいと思う俺を跡部は許さなかった。 「渡すものか!コイツは俺様のものだ!!」 俺は憎むだろう。 明良を苦しませ、明良を地獄につき落としたおまえを。 「おまえがいたから。おまえがいたから明良は俺を愛さなかったんだ!!」 跡部がナイフを持って俺に襲いかかってきた。 この世で結ばれないならあの世で結ばれるのも悪くない。 そんなことを思った俺も跡部と同様に狂っていたのだろう。 愛しすぎて 本当の愛を見失っていた気がする ** END ** 2007.11.6 |