ある朝のこと また来た。 私の天敵だ。 そのせいで食欲が全くなかったけど、朝食を抜くことが体に悪いことだと知っていたから朝ご飯を食べようと思った。 『はぁ、食べたくない。』 食パンをトースターで焼く。 表面がカリッとするくらい焼くのが私の好みだ。 それに加えて季節関係なく、牛乳は電子レンジで温める。 これが私の朝食。 『バター…』 いつもならバターを塗るんだけど、こんなに気持ちが悪いんだから油っこいのは止めたほうがいい。 冷蔵庫の扉を開けてバターに手を延ばしていた私はそう結論に至った。 じゃあ、カロリー摂取目指して甘いジャムにでもしようと考えを改めた。 『ジャムねー…』 冷蔵庫にその姿が見当たらなくて仕方なくストッカー(貯蔵棚)へと向かう。 棚の扉を開けると苺ジャムとマーマレード、ピーナッツバターの瓶が出迎えてくれた。 『ダブルにしようかな?』 みんなは気持ち悪がるけど私は苺ジャムとピーナッツバターの組み合わせが好きだ。 下地としてピーナッツバターを塗り、上に苺ジャムを重ねる。 最高に贅沢な朝食だ。 それはいいとして――… 『ヤバイ、』 未開封の瓶が私を虐めてきた。 ジャムの瓶なんてのは熱いうちに蓋をするから半端なく開封に力が要る。 折角、ない食欲を奮い立たせたっていうのにこれではパンと牛乳が冷めてしまう。 さらに学校に間に合わなくなる。 『仕方ない。』 テーブルにあった携帯を手にしてアドレス帳をすぐに開いた。 その一番始めにある名前に電話をかけた。 「おはようさん、」 『おはよー』 彼は間もなく電話に出てくれた。 部活をしていた彼の冬に朝練はない。だから繋がった。 『あのね?ジャムの瓶をね?』 「…開けられんの?」 『ごめん、』 「謝ることなかよ。今からいっちゃるけん。」 彼、仁王雅治はそう告げると電話を切った。 いつもならなんてことないのに生理の時ばかりは非力になってしまう。 一人暮らしをしているとこういう時に虚しくなる。 「明良ー」 チャイムよりチャイムと同時に聞こえた声に反応して彼を出迎えた。 瓶の蓋を開けるためだけに来てくれた愛情深い彼に感謝。 「どの瓶が開かんて?」 『これ、』 「………開いたぜよ。」 私が開けると力が入って声をあげるけど、日々鍛えている彼にすればなんてことはないらしい。 『助かった。ありがとう、』 「どういたしまして。」 『ご飯は?』 「まだ。」 そう返事してくれた彼をよく見ると制服を着て鞄まで持っていた。 きっとうちで食べて行く気なんだろう。 『食べてく?』 「サンキュー」 『今支度するね。』 「パンとジャムと牛乳でいいぜよ。」 『わかった。』 雅治なりの優しさだ。 彼が食べると言うならサンドイッチでも作ろうかと思ったんだけど、お見通しだったってわけね。 「いただきまーす。」 『どうぞ、』 二人で朝食なんて、そうあったものじゃない。 ゆっくり過ごしたいけど残念なことに時間があまりない。 「明良、おまえさん着替えなくていいんか?」 『え?うわ、こんな時間!急がないとっ。』 「手伝っちゃるか?」 『いらない!』 「くくくっ、」 バタバタと自室へ着替えに行った私を見て、雅治が嬉しそうに笑っているなんて私は知らない。 「のう、明良?」 『なにー?』 「いつか――」 ある朝のこと 毎日一緒に食べる日が来ればいいのう ** END ** 20090109 生理痛シリーズY |