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そばにいるだけで


別におなかの調子が悪いわけではないんだけど、トイレにいるとお腹が安心する。

空間も狭いからだろうか?


『すんごい痛い…』


薬を飲んだから寝てるのも良いかもしれないけど昼間っから寝られない。

それになにをしてても痛いのは痛い。

今は薬が効くまで待っているのだ。


―♪〜…♪〜…


静かな狭いトイレでズボンのケツポケットに入れていた携帯が鳴り響いた。

びっくりして口から心臓が出そうになった。

ポケットから取り出して見た携帯のディスプレイには“跡部景吾”の文字。

出てあげたいのは山々だけどトイレで電話に出るわけにもいかない。


『(別に問題はないけど気分的にイヤだし。)』


しかたなく振動する携帯を横目にほっといてみるが、切れる度にもかけ直してくる景吾。

恐らく私が電話に出るまでずっと続くだろう。

着信履歴が全部跡部景吾になるのも気持ち悪い。

私は景吾の執念に呆れ、電話に出た。


『もしもし?』

「……あん?今トイレなのか?」


ト・イ・レ・な・の・かぁ!?


『あまりにもしつこいから出たの!』

「なんだ、腹の調子『悪くありませんから。』


いつからこんなに下品になったのか。

世界を征服できる男が仮にも女性に向かって!


「明良にしか言わねぇよ。」


はいはい、そうですね〜?

景吾は私に遠慮なんかしないもんね。

嬉しいけど嬉しくないよ。


……って、私口に出してないハズ。


「全部、口に出てんだよバーカ。」

『バ、バカ!?』


口に出した記憶ないのに心を読んだとしか思えない!

ムカつくー!


「で?トイレでなにしてんだよ?」

『なにって?…えっと、』

「まさか、一人でヤってたのか?」

『んなわけないでしょ!』


なんつーことを言うんだコイツは!!


「そうだよな?明良が一人でヤるのは俺を楽しませるために目の前で見せてくれるときだけだもんな…クククッ。」

『さっきから聞いてればぁ…』


握った拳が震える。

つか、一人でしたことないもん!!


『景吾がいるのになんで一人でしないといけないの?』

「あん?気持ちいいならいいだろ。」

『よくない!!……で?なんでトイレにいるとわかったんですか?』

「あん?風呂にしては声が響かないし、少し反響してたからトイレだと思ったんだよ。」

『わざわざ理解していただいてありがとうございます。』


感謝する気はなかったから棒読みで返事をしたけど景吾に無視された。


「で?生理なんだろ?」

『なんで知ってんの?』

「前回の時から数えたらなんとなくわかる。」


景吾の口からそう聞き、気にしててくれたんだとわかり嬉しかった。

さっきまで怒ってたのに私ってかなり単純だ。


『……景吾大好き。』

「電話越しで言うな。」

『……しょうがないじゃん。』

「俺の耳元で囁けよ。」


まぁ、なんともこっ恥ずかしいセリフを言ってくれるわ。

でも、おかげで安心したのか生理痛が和んだと錯覚し、トイレから出ることにした。


―ガチャン


トイレを後にし、台所まで来て血糖値を上げるべくチョコレートを探し、口にほり投げた。


『…やらよ。恥るかひいもん。』

「今更恥ずかしいもくそもねぇだろ?」


右耳にあてる受話器からは確かに景吾の声が聞こえた。


でも左からも聞こえた。

左の耳元で囁かれ、まさかと思い振り向いた。


「こんなに愛してんのに?」

『……んッ!』


振り向きざまに唇を奪われた。

相手は言うまでもなく景吾なわけで…驚いてチョコを味わう前に飲み込んじゃった。勿体ない!


「明良の囁きを聞きに来たぜ?」

『ふ、不法侵入者ぁ!!』


いつ入ってきたのか知らないがちゃっかり上着は脱いでいた。


「嬉しいくせに言うなバカ。」


バカと言われるのも愛情表現だとわかるから愛しく感じる。


あぁ、そうか…きっと心配して来てくれたんだ。

なら、素直にお礼くらいしなきゃね。


『…景吾?』

「あん?」

『愛してるよ。』

「当たり前だろ?」

『うわ、ムカつく…!』


人が折角、愛の言葉を―――まぁ、知らないより知ってくれてるほうがいいけど。


「ほら、来いよ。腹撫でてやるから。」

『恥ずかしいからいいよ…』


そう言いながらしっかり景吾に甘えたくて抱きついてた。

そういう許される可愛い矛盾に彼は突っ込んだりしない。これは彼の優しさ。


「フン、今更。」


私から景吾に甘えること事態、滅多にないことを景吾はわかっている。

だから余計かもしれない。


「生理のときだけだもんな。」

『なにが?』

「いいや?」


そんな日を景吾が楽しみにしてるのも知ってます。


「で?飲んだんだろ薬。少しは効いたのか?」


そう言われ、気づけば痛みは不思議なことにかなり和らいでいた。


『……うん』


私の薬はこれだと気付く。

ムカつくくらい格好良くて、胸が締め付けられるくらい優しくて、切なくなるくらい愛しい人。


「明良には俺が端っから必要なんだよ。そうなんだろ?」


私の生理痛を和らげる一番の薬は――…


『ありがと、景吾。』

「ああ。(腹が痛いって俺にはわからねぇ。だから、額に汗して苦しむ姿を見てると俺の胃が痛くなんだよ。)」





そばにいるだけで
あなたから得られる安心感だけなのだ





** END **
2006.1.27

加筆 2007.6.5


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