ラブ・シチュエーション 風が冷たくなり、彩る葉が木々と別れを告げた。太陽とお話出来る時間が短くて物足りない。 『寒いー。跡部、寒いー。』 「んなの俺だって同じだ。」 『もう部活は外なんて無理だよねー』 「当たり前だ。だから室内でしてんだろうが。」 冬を感じる季節になった。 マネージャーである私が率いる(違う)氷帝学園男子テニス部は寒さに耐え兼ねて室内練習へ移行した。 「あーん?だれが率いてるて?」 『はい、すいません。跡部さまです。』 「わかればいいんだよ。」 練習に励むみんなを鋭い眼差しで見ている跡部は中等部では全国大会へ行く最後のチャンスを逃すまいと真剣だった。 『跡部にライバルはいないの?』 「あ?」 『ほら、忍足や向日、滝や宍戸はいい仲間であり、ライバルじゃない?』 「俺と釣り合うヤツなんかいるかよ。」 『うわー』 確かに跡部に仲間はいてもライバルはいない。それだけずば抜けてすごいテニスセンスを兼揃えているってことだと思う。 『ライバルはいないと延びないよー?いつか壁にぶち当たるし。』 私の言葉を聞いてか、跡部が上から目線で私を見ていた。 『なによ。腹立つからその目線やめて。あんたのそのデカイ態度どうにかならないの?』 「明良に言われなくてもわかってる。」 『態度のこと?』 「ちげぇよ。ライバルの話だ。」 『あ。そっち。』 特に話が発展することなく、私はまたみんなに目を向けた。すると跡部は一言呟くように言った。 「恋敵は数えられないくらいいるんだけどな。」 『え?』 「いやなんでもねぇ。」 聞こえなくていい内容だったのか、聞き取れなかった私に復唱する気はなかったみたい。立ち上がって部員に指示を出していた。 休憩時間だ。 「跡部っていつも明良にぴったりだCー!」 「クソクソ跡部。」 休憩時間になっても去っていく気配はなく、しばらくするとまた座ってしまった。 「そうはさせねぇよ。」 『なんの話?』 「おまえには3年の夏に教えてやる。」 『なんで半年先なわけ!?』 「おまえが俺を好きになってるからだ。」 一瞬、跡部がなにを言ってるかわからなくて目が点になった気がした。でも、すぐに反論した。 『はぁ!?なにバカ言ってんの!?』 「言っただろ。恋敵は無数にいるって。そいつらを叩き潰して頂点に立つには半年先だ。」 『頂点?全国大会で優勝のこと?(でも恋敵となんの関係あんの?)』 「それまでお預けだ。今、明良を手に入れたら練習に明け暮れる日々の中でライバルが横からかっさらっていくかもしれねぇし。」 なんの話だか全く理解出来なかった。いや、したくなかった。しなくていいと思った。 「全国大会優勝旗を明良に捧げるって誓ってやるよ。」 『いや、監督に捧げてください。』 「バカ。テニスで頂点に立った男の彼女とくれば、わざわざ明良に手を出しやしねぇだろ。」 でも、ご親切に説明してくれた。してくれなくていいのに。 「絶対行ってやる。全国。」 その闘志がテニスに対するものなのか、なんなのかはわからない。ただ、そんなことを言った跡部が少しかっこよく見えて……。 「なに見とれたんだよ。」 『見とれてない!』 「俺に惚れ込むのも次期だな。」 『バカ言わないでよ!私は…!』 「はいはい、クククッ。」 でも、室内でよかったと思う。それが大好きな外で滴る汗を袖で拭ってたりなんかしたら、きっと―― ラブ・シチュエーション 大切なのは状況と愛とときめき ** END ** 2008.11.10 |