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ある冬の日常で


コタツの中で丸くなる猫みたいに布団から少しでも体を出したくないくらい寒い朝を迎えるようになった今日この頃。

毎朝、私は寒さと戦っていた。

外に出ると身を震わせ、全身がキュッと縮こまる感じが嫌い。


『いってきますー…うわ寒い!』


学校に行けば、教室は暖房があるからそれまでの辛抱だった。

寒い中、ちんたら歩いて時間を費やすなんて冗談じゃなくて毎朝走って登校していた。


『はよ日吉。今日も寒いね。』

「あぁ。今日も走ってきたのか?」

『うん。』


教室に入るなり、真っ先に窓辺にある暖房まで駆け寄った。

暖房の隣が席である日吉が毎日羨ましかった。


「早苗は寒がりだな。」

『日吉が寒冷地仕様なだけでしょ?』

「ここ(関東)ははたして寒冷地なのか?」

『私にすれば寒冷地も同然よ。』

「本当に寒冷地に住む人に怒られるぞ。」

『別にいいもん。』


暖房が恋しい私は毎朝、日吉とこんな会話を交わした。

それが日常だった。


「HRは以上だ。起立、礼、…気をつけて帰れよ。」


長い長い学校が終わり、ロッカーに向かい、しまっていたマフラーを取り出し、首に巻いた。

もうそろそろ手袋もいるかもしれない、なんて思いながら身支度を始めた。


『日吉ー私帰るわー』

「…なんで俺に報告する?」

『え?だって勝手に帰ったら、いなくなったーって心配するしょ?』

「しない。早く帰ればいいだろ。」

『ぶー!冷たいー!雪のように冷たいですー!』


素っ気ない日吉に文句を言うのも日常茶飯事だった。

さらに冬場は部活があまりないため、遠回しに一緒に帰ろう?と誘うのも常だった。そして、いつも軽くあしらわれるのも。


『早く帰ろー?そしてコタツの中で蜜柑を食べよう!』

「年寄りみたいだな。」

『風邪予防にビタミンCよ!』


くだらないことを言いながらいつも二人で玄関に向かった。

その様子を見た友達が本当は付き合ってるんでしょ?と、訪ねられるのも日常だった。

学校の建物から出て開口一番、


『寒っ!』


と、言うのが癖になりつつあった。

すると日吉が早苗はそればっかりだな、と苦笑した。


『だって息が白いのよ!?』


ゆっくり吐いた息が白くなった。わざわざその寒さを確認してる自分がいて嫌になった。

首に軽く巻いてるマフラーがもっと長ければ、と思う。ぐるぐる巻きにすれば寒くないのに…


『日吉は寒くないわけ?』

「寒くないわけではないけど、早苗ほど寒さは感じないと思う。」

『もしかして私って冷え症!?』

「安心しろ。もしかしなくてもそうだ。」


あまり寒そうに見えない日吉を見て一人で寒がってることに気づく。

毎年、マフラーやブーツを押し入れから出してきて使うのが早いから今更だけど。


『あ!もしかして……』

「冷たい!」

『やっぱりー!』


日吉の体の横でぶらんとだらし無く垂れ下がっている手を引っ張って自分の前まで持ってきた。握ってその温かさに驚いた。

日吉は私の手の冷たさに驚いていた。


『なんでこんなに暖かいの!?』

「俺も聞きたい。なんでこんなに冷たい?」

『いや〜一家に一人日吉だわ。』

「……」


これだけ温かければ手放したくない。

手を離すのを待っている日吉が私を無言で見ていた。


『よし、帰ろうか!』

「…おい、早苗。」


呼び止められた上、動き始めた私に引っ張られたはずなのに微動だにしなかった。


『なによ。手、繋いでたらダメなわけ?』

「そんなことはまだ言ってない。」

『言うつもりだったのね!?』


拗ねた子供のように頬を膨らませてみた。それを見た日吉は小さなため息をついた。

それから歩き出した。

だから今度は私が日吉に引っ張られた。日吉の行動が読めなくてキョトンとしていた私に日吉はこう言った。


「帰らないのか?」

『…帰る。帰ります!』


すぐに日吉の隣まで足を早め、きちんと手を握り直した。すると日吉はまたため息をついてから歩きはじめた。


『いっそのことカップル繋ぎする?』

「はぁ?」

『はい、すいません冗談です。』


きっと、もう間近。

不器用だから好きだとか言えないけど、お互い互いの気持ちを感じてるはず。

握る手にほんの少し力が入った。だから私も握り返して答えた。


『ふふ、』

「何笑ってるんだ、気持ち悪い。」

『き、気持ち悪い!?』





 ある冬の日常で
 繋いだ手は離したくないと思った





** END **

2008.10.22

一足早いですが温かい冬を皆様に(何気に続編だったり)



あきゅろす。
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